メディアフォーカス

多様化するアメリカのパブリック・アクセス

アメリカにおけるパブリック・アクセス(放送への市民・視聴者の参加)は,これまで主として公共放送やケーブルテレビを中心に展開されてきたが,放送のデジタル化や伝送路の多様化に伴って,様々な新しい試みが出現し注目を集めている。

①UonTV

サンディエゴに拠点を置き,無料衛星放送市場を開拓するUonTV社が7月20日からスタートさせたサービスは,最低料金なら30分あたり20ドルで誰でもコンテンツを発信できるというもの。個々のコンテンツ制作者はパソコンで編集したコンテンツデータを,UonTVのサーバーにアップロード,これが衛星を通じて全国配信される。専用のアンテナ(200ドル前後)とヨーロッパのDVB方式の受信機が必要だが,受信は無料で,同社によれば無料衛星放送の受信者は北米で400万人~500万人いるという。

コンテンツ制作者は時間帯によって30分あたり20~120ドルの料金をUonTVに支払う。放送されるコンテンツには著作権法が適用されるほか,時間帯に応じた内容制限があり,わいせつな内容や暴力的なコンテンツなど過激なものは放送されない。

②カレントTV

一方,前副大統領のアル・ゴア氏を中心とするグループは8月1日,一般市民が撮影した映像を基にした24時間のニュース専門チャンネル「カレントTV」を開設した。これはゴア氏らがNBCグループ傘下のニュース専門チャンネルを買収して衣替えしたもので,サンフランシスコに本拠地を置く。衛星放送・ケーブルテレビを通じて全米の2,000万世帯が視聴可能である。一般の市民記者が撮影したビデオ映像をホームページ上で予め公開し,インターネット投票によって放送の採否が決まる。放送された場合,市民記者に一本250ドルの使用料が支払われる。

このサービスのターゲットは18~34歳までの若年層に置かれている。アメリカではインターネットのブログが若者を中心に急速に普及している。ゴア氏は「我々はインターネット世代にとってのテレビ上のホームページになろうと考えている。若い世代はメディアは自分がコントロールすべきものと考えている」と説明しており,カレントTVはいわばテレビ版のブログのような存在になるのではないかと注目を集めている。

③NY1「The Call」

また,タイムワーナーの傘下でニューヨーク地域のニュース専門局NY1は,視聴者が編成するニュース番組『The Call』を7月25日からスタートさせた。この番組は月曜日から金曜日まで毎晩9時から30分間放送されるもので,ホームページを通じて視聴者からニュース項目を公募し,集まった12の項目の中から自分が最も重要と考える順にホームページ上で並べ替えることができる。視聴者は自分が選んだニュースの順番とNY1の放送での順番とを見比べる楽しみもあり,局としては視聴率の上昇につながる可能性があるとして期待されている。

デジタル化の進展と伝送路の多様化に伴って始まったパブリックアクセスの新しい形態や新しい試みは今後も拡大しそうだ。

米倉 律