メディアフォーカス

バイアコムがCBSなど放送局を分離へ

アメリカの複合メディア企業大手のバイアコムは6月14日,同社の事業部門を二分割する案を,役員会が承認したと発表した。計画は2006年の第一上半期までに分割を実行するというもので今年3月に構想が発表されていた。分割後の社名は,バイアコムとCBS コーポレーションとなる。分割後の新生バイアコムは,ケーブルチャンネル(MTV,Nickelodeon)と映画製作のパラマウント・ピクチャーズ等を所有し,他方CBSコーポレーションは,地上波ネットワークのCBS,UPN,出版のサイモン&シャスター等を所有する。両社ともニューヨークに本拠地を置き,それぞれの年間売上高は前者がおよそ90 億ドル,後者が140億ドル規模となる。

新しいバイアコムは現在の共同社長の1人であるトム・フレストン氏が率い,もう1人の共同社長であるレスリー・ムーンベス氏が新しいCBSを率いるが,両氏の新しいポストはCEOではない。現バイアコムの会長兼CEO を務めるサムナー・レッドストーン氏が,分割後も両社の会長兼CEOポストにとどまり続ける予定である。またレッドストーン会長の娘であるシャリ・レッドストーン氏が非常勤副会長に指名されている。

バイアコムはもともと1971年にCBSの番組流通部門が独立した企業であるが,80年代から90年代にかけてケーブルテレビ,映画関連企業,インターネット企業などメディア関連企業を次々に買収することで垂直統合・水平統合を進めていった。そして2000年 5月には344億ドルを投じて親会社CBSを買収,アメリカでも最大手の複合メディア企業のひとつに成長した。しかし好調なケーブルテレビ部門やインターネット部門に対して,ラジオ,屋外広告などの低成長部門に足を引っ張られる形で収益が伸び悩み,期待された部門間の相乗効果を生み出せなかった。地上ネットワークも業績が悪化,今年の1-3月期決算ではCBS,UPNあわせて前年同期比で 5%(約2億ドル)の減収となっている。

今回の分割について,レッドストーン会長兼 CEOは,「時には結婚よりも離婚のほうが良いことがある」と説明,新生バイアコムが成長著しいMTVなどケーブルテレビ部門や映画事業に特化することで業績改善を図るとしている。一方のCBSは,高い株価は見込めない代わりに配当などで株主還元を厚くすることができると期待されている。同氏は「明確に会社の特性を分けることで,より大きな収益の可能性が開け,より多くの株主への利益の還元が可能になる」と説明している。

しかし関係者の多くは今回の分割を,バイアコムによるCBS,UPNという地上ネットワークの「切り離し」と見ている。背景には地上ネットワークの地盤沈下が指摘されている。ケーブルテレビ,衛星放送の普及が進んだこともあり,03/04シーズンの7大ネットワークの視聴シェア(プライムタイム)はケーブルテレビを下回る44%である。インターネット広告の普及などによって広告市場にも構造変化が起き始めており,ネットワークの広告媒体としての訴求力は低下している。NBCユバーサルを傘下に持つGEや,ABCを所有するウォルト・ディズニーなどにも地上波に依存しない体質を作ろうとする動きが,今後顕在化する可能性がある。

米倉 律