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インド,マードック氏のデジタル衛星放送市場参入にゴーサイン

インドで放送行政を所管する情報放送省は,5月17日,香港を拠点とするルパート・マードック氏傘下のスターが,インドの名門財閥タタと合弁を組んで免許申請していたデジタル衛星放送Space TVの事業計画を承認する書状(LoI,Letter of Intent)を送付した。これをもって,スターとタタは事業免許の交付を受ける正式な手続きに入り,今年末にも直接受信(DTH)の衛星放送Space TVの本放送を開始する予定である。

衛星放送事業の世界展開を目指すマードック氏は,かねてからインド市場への参入に強い意欲を燃やし,インドでDTHの衛星放送事業が解禁されると,2002年,いち早くインド人投資家らと合弁を組みSpace TVの事業免許申請を行った。しかし,インド政府のDTHガイドラインには外資の厳しい制限(外資の直接投資は20%以内)とインド国籍保持者による経営・編集権の確保が定められており,審査の過程で申請書類にダミー疑惑が浮上したため申請は退けられた。そして,2003年10月2日,インドの放送市場でマードック氏の最大のライバルであるZeeグループ総帥スバシュ・チャンドラ氏率いるDish TVが,インド初のデジタル衛星放送を開始した。

Zeeとの緒戦に敗れたスターは,2004年1月,インドの大財閥タタと合弁を組み直し(株所有比率,スター20%:タタ80%),Space TVの事業申請を再度インド政府に提出した。大方の予想では,スター・タタ連合の申請は問題なく処理され,その年の内にもSpace TVの本放送が始まると見られていたが,「申請書の株主合意内容とSpace TVの経営構造はスター側に有利で,DTHガイドラインと会社法に抵触する」との企業省の異論などで処理が停滞した。こうした事態の打開にマードック氏が,今年3月,インドを訪問し首相や情報放送相らに直接陳情を行い,再申請から1年以上を経てようやくLoIの送付となった。

スター・タタ連合はSpace TVに160億ルピー(約425億円)を投入し,イギリスのBskyBをモデルにインド最大のデジタルテレビ・プラットフォームを構築して,双方向サービスを含む多様な番組チャンネルを最高の画質と音質で提供する,としている。

インドでは,ZeeのDish TVだけでなく既に国営テレビDoordarshanのデジタル衛星放送DD Direct+が,2004年12月16日から本放送を実施し,激しい加入者獲得競争が繰り広げられている。後発のDD Direct+は無料サービスを武器に急速に加入件数を増やし,2005年5月現在,先発のDish TVの20万に対し200万を超す加入件数を獲得している。危機感を募らせたDish TVは,視聴に必要な課金の大幅な減額やチャンネル編成の改善で巻き返しを図っている。

情報放送省は,5月17日,Space TVだけでなくカラニディ・マラン氏傘下のSun TV(南部インドの有力チャンネル)から出されているSun Direct TVの免許申請も受理する方針を明らかにしており,この2つが加わるとインドではデジタル衛星放送市場で4つの事業者が競い合う状況が生まれることになる。特に,Space TVとDish TVの間で激しい競争が始まるのは必至の情勢で,インドのデジタル衛星放送の動向から目が離せない状態がしばらく続きそうである。

塙 和磨