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JR福知山線脱線事故,BPOに取材への苦情相次ぐ

2005年4月25日に発生し,107人が死亡し500人以上がケガをしたJR福知山線の脱線事故の取材に関して,2005年5月末までに被害者の一人と名乗る男性からをはじめ134件の苦情が,放送倫理・番組向上機構(BPO)に寄せられた。 BPOによると,寄せられた意見はかつてないほど多く,過剰取材とインタビュー時の配慮不足への苦情が大半を占めた。

事故で軽いケガをしたという男性からは, 「行方不明の乗客の家族に密着取材し,家族や関係者に精神的な苦痛を与え続けた無神経さと倫理観の無さ。奥さんが亡くなったご主人へのしつこいインタビューなど,某局のあまりに行き過ぎた報道に,事故に遭った者として心底から怒りがこみ上げた。後日の事故検証の中での関係者・遺族へのインタビューならいざ知らず,悲しみの渦中や捜索中の家族への思いやりに欠けたぶしつけで酷い取材や報道姿勢には我慢ができない。被災者・関係者に対するいたわりの心はないのか。このような事故・災害に際し,“あるべき取材活動”について真しん摯しに検討してほしい」との指摘があった。

このほか次のような意見があった。

「被害者・家族の人権をどう考えているのか。肉親を亡くした人にカメラを向けてインタビューする神経を疑う。さらにひどいのは,亡くなった人の写真をどこからか入手し,生前のエピソードとともに放送する局。被害者の家族の傷に粗塩を塗り,感情的に視聴者の涙を誘うことがジャーナリズム性や公共性の高い放送なのか。冷静に,事故が発生した要因や背景を追究することが必要ではないのか」

「報道各局は,伝えた情報による社会的影響を無視している。原因は究明中であるにもかかわらず,『未熟な運転士のスピードの出し過ぎ』と感じさせる内容ばかり。被害者の関係者や視聴者が原因を知りたがるのは分かるが,不確定な内容を基に悪者を強引に推測することが本当に視聴者の利益にかなうのだろうか」

「行方不明になった高校生の取材で,夜中に民家の呼び鈴を鳴らし,高校生の住所を尋ねてきた放送局がある。夜中に行くつもりだったのか。被害者や家族の人権だけでなく,住民の生活権も脅かしていて,非常識すぎる。取材の仕方を考えてほしい」

「記者会見で高圧的で傍若無人な質問が飛んでいた。記者はいつもあんな調子で生意気な物言いをするのか。非常識極まりなく到底許せない。総理記者会見等のように質問者は社名と名前を告げてから質問するルールを確立するようBPOが指導してほしい」

「中継を見ていて,取材記者の行き過ぎを感じた。また,搬送中の負傷者に無理やりインタビューしたり,病院にまで押しかけたりすることは慎むべき」

こうした意見に対して5月13日に開催されたBPOの放送番組委員会では,「最近のメディアは大ニュースをドラマ化しているのではないか。視聴率を意識して,真実追求よりドラマ性をいかに盛り上げるかの視点で取材が行われている。こうした傾向が視聴者のテレビ不信につながっているのではないか。もっと冷静に事態を分析する取材が必要である」などの意見が出された。

奥田 良胤