メディアフォーカス

中国の「反日」デモ報道 “封殺”から“不参加呼びかけ”へ

中国の北京や上海,広州などで4月2日から3週間続けて週末ごとに繰り広げられた「反日」デモは,中国国内では当初全く報道されなかった。これは中国政府がデモ自体は黙認する一方,デモの際限なき拡大と反政府運動への転化を恐れて報道を封殺したものと見られ,中国のメディア関係者もデモの実態についての報道が当局から許可されなかったことを認めている。しかしインターネットや携帯電話を通じてデモへの参加が呼びかけられ,「反日」デモが全国各地に広がりを見せると,当局はデモを抑止するため,報道機関を利用せざるを得なくなった。中国中央テレビ(CCTV)の夜7時のニュースでは,4月17日の段階で,新華社の評論「一心に建設を行い,一心に発展を図ろう」や人民日報の評論「調和社会の建設という視点から安定を見る」を7時19分から3分ほど伝えた。この中ではデモという言葉は見られないが,「国際・国内の環境はかなり複雑」「冷静に理性を持ち,法にそって秩序を保つ」などという表現があり,明らかに「反日」デモを念頭に置いた議論を展開している。また,翌18日には,町村信孝外相の中国訪問に関するニュースで,李肇星外相が「日本は反省を行動に移し,中国人民の感情を再度傷つけないように」と述べ,町村外相が「日本が中国を侵略したことをひどく残念に思い,深く反省してお詫びする」と述べたとして,中国側の主張だけを取り上げて報道した。さらに19日には「反日」デモに関する党・政府・軍幹部の緊急会議が開かれたことから,この会議を紹介するニュースの中で,無許可のデモに参加しないようにとする当局の呼びかけとして,初めてデモを明示した報道が行われた。CCTVではこのあと5月初めにかけてほぼ連日,新華社に加え人民日報・経済日報など中国共産党機関紙の評論を紹介するという形で,「安定団結」や「法にそった行為」を呼びかけた。また4月25日のニュース評論番組「焦点訪談」では,元外務省報道官の呉建民外交学院院長とCCTVの前駐日特派員の孫宝印記者をスタジオに招き,2人は「村山元首相は首相在任時に明確に謝っている」「日本の国民の大部分は基本的には過去の歴史を反省している」などと発言し,全体として対日関係の修復を目指す色彩が濃い内容となった。

中国共産党の機関紙人民日報でも,デモ抑止の方針が固まってからは,日中関係について大量の報道・評論が行われた。「日本政府が歴史問題などで誤った態度をとったことが中国人民を怒らせた。人々の義憤は十分理解できる」などとデモ発生の背景について理解を示した上で,当局の許可を得ていないデモをしたり,日本製品のボイコットを叫んだりするのを戒め,理性的な対応を呼びかけている。その一方で中国国内の不満にも配慮し,過去の歴史認識について日本政府を批判する立場の日本人へのインタビューをしたり,過去の歴史を深く反省するドイツを肯定的に紹介する記事を掲載したりしている。

一方,4月25日付けの上海の党機関紙「解放日報」に掲載された評論は,「最近起きた違法デモは愛国的な行動などではなく,裏にたくらみのあるものだ」などと,他の評論とかなりトーンの異なる内容だったため,関係者の間で憶測を呼んでいる。

山田 賢一