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FCC, DTV多チャンネル 再送信義務を拒否

米連邦通信委員会(FCC)は2月10日,地上テレビ放送業界が求めていた,ケーブルテレビ事業者に地上デジタル多チャンネル放送を再送信させる義務について,これを拒否する決定を行った。この結果,テレビ局の, 1チャンネルを超える再送信についてケーブル事業者との交渉に委ねられることになった。

決定は2件の懸案への結論を出したもので,懸案の1つは,地上デジタル放送への移行期間,ケーブル事業者がアナログ・デジタル両波を再送信する義務があるかどうか,もう1つはデジタル放送に全面移行した後,ケーブルテレビ事業者がデジタル放送の2チャンネル以上の放送を再送信する義務があるかどうか,というものであった。結論は,いずれも義務はない,とするもので,まず2波同時再送信はデジタルテレビの普及にかならずしも寄与しないとした。さらにアナログの再送信義務があるからと言って多チャンネルの再送信が地上波テレビの生き残りに必要だとは言えず,また,ケーブルテレビの表現の自由を制限することはできないとし,ケーブル事業者にとって極めて有利な決定となった。

放送事業者とケーブル事業者がぶつかりあうきっかけとなったのは, 1992年の「ケーブル視聴者保護法」で,アナログ放送の再送信がケーブル事業者に義務づけられたことが出発点となっている。それまでケーブル放送事業者は無料でテレビ局の放送を再送信していたが,放送事業者の意向を反映したこの法律をきっかけに,ケーブル事業者は,放送事業者に金を払って再送信するか(再送信契約),今まで通り無料でただし義務として再送信する(マストキャリー)か,のどちらかを放送事業者と交渉することになった。しかし, 1993年の時点でもケーブルテレビでテレビを視聴する世帯が60%を超えており,人気のあるテレビ局といえども,ケーブル事業者が金を払わないからといって,再送信拒否に訴えることは難しいものとなっていった。

力関係がケーブルテレビに傾く中,デジタル放送について再送信問題をどうするのかが,両者の間の論争となった。放送事業者は,アナログ・デジタル両波の完全再送信,デジタル移行後のデジタル帯域全面再送信を求めたが,ケーブル事業者は,帯域をどう使うかは自分たちの自由だとして対立してきた。FCCは 2001年1月,デジタル再送信について今回と同様の決定を暫定的に示したが,放送事業者はFCCに再考を求めていた。

ケーブルテレビ業界を代表するNCTAは,FCCの決定に対して,何を見るかを決めるのは消費者の権利だとして,今回の決定を高く評価した。一方,全米放送事業者協会(NAB)は,チャンネルの多様性こそ消費者の利益に合致するものだとし,FCCの決定を覆すため,裁判所や議会で訴えていく,としている。

FCCは,1月末にPBSがケーブル業界と多チャンネル放送の再送信で合意したことを引き合いに出し(本号「海外の動き」参照),商業放送事業者にもケーブル事業者に再送信を促すような番組づくりを求めている。が, 今回の決定で,放送事業者にとって帯域すべてを使ったビジネス戦略がたてにくくなったことは事実で,データ放送などもケーブル側とどう折り合いをつけるかは未解決のままで,難しい状況が続きそうだ。

池田 正之