メディアフォーカス

CBSニュース 「大統領軍歴報道」の波紋

米CBSは,大統領選挙戦中の2004年9月,報道番組『60ミニッツ水曜日』で,ブッシュ候補がテキサス州空軍兵時代に特別扱いされていたと放送した件で,1月10日,直接担当した女性プロデューサーを解雇し,その上司3人を辞職させた。外部調査委員会から「基本的なジャーナリズムの手順が踏まれなかった」とする指摘を受けての処分だった。アメリカのニュース・マガジンの草分けである『60ミニッツ』に汚点を残し,CBSニュースは信頼の回復が迫られることになった。

CBSは水曜日と日曜日の夜8時からニュース・マガジン『60ミニッツ』を放送,そのうち水曜日は夕方のニュースを担当するダン・ラザー氏がキャスターを兼ねている。問題となったのは,9月8日に放送された『60ミニッツ水曜日』で,ブッシュ大統領が州空軍兵だった1968年から退役する1973年までの間の状況を示す4つの未発見のメモが,ブッシュ氏の当時の上司ですでに故人となった人物の私的ファイルから見つかった,と伝えた。メモには,ブッシュ氏が義務づけられた健康診断を受けなかったこと,72年の5月から11月まで父親のアラバマ州での選挙キャンペーンがあるので訓練をはずすよう上司に要請したこと,ブッシュ氏の家族と親しい将軍から,ブッシュ氏の評価に手心を加えるよう圧力を受けたこと,などが書かれていた。

この報道はすぐに批判の矢面に立たされた。もともと1999年の大統領選挙時に同様のうわさが広まったものの,メディアは確固たる証拠を得られず追求を断念した経緯がある。批判はメモの信憑(しんぴょう)性に集中し,実物でなくコピーである,軍関係用語の表記が当時の文書と一致しない,また当時のタイプライターには無かった字体である,などの指摘がなされた。CBSはメモが本物だったと主張し続けたが,9月20日,このスクープのリポーターも務めたラザー氏がメモの真偽に疑点があったことを放送で認めた。CBSは元司法長官と元AP通信社長2人に委託して外部調査委員会を設け,4か月たった1月5日報告書が提出された。

報告書は「メモが絶対に偽物だとは言えないが,あいまいさが残るままで放送に踏み切った」とする。そして,?鑑定を依頼された専門家が疑問を呈しているのに本物だと伝えた,?メモを渡した元軍関係者の素性を詳細に調べなかった,?当時の上司の公式なメモとの比較をしていない,?当時の州空軍関係者から多様な見解を集める努力を怠った,などを列挙している。また,イラクでの捕虜虐待などをスクープした担当プロデューサーとラザー氏のコンビを信頼しすぎて放送前の検証が粗雑であったこと,放送後の批判に真摯(しんし)に対応せず,傷を深め信頼を損なったことなどを批判した。報告書は,論議を調査報道についてチェック体制の強化を求めた。

伝説的キャスターであるクローンカイト氏の跡を継いで看板キャスターを務めてきたラザー氏は,処罰を免れたが,3月でキャスターの役を降り1リポーターに戻ることをすでに明らかにしている。留任したCBSニュース社長アンドリュー・ヘイワード氏のもとで,CBSニュースの信頼をどう回復するのか,『60ミニッツ』をどう立て直し,ほかのネットワークに対抗できるキャスターをどう育てるのか,困難な道のりが始まった。

池田 正之