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NHK,海老沢会長が辞任 受信料の支払い拒否が拡大

一連の不祥事とその後の対応に視聴者のNHK不信が強まり,受信料の支払い拒否・留保が増え,進退が注目されていたNHKの海老沢勝二会長は,05年1月 25日,NHK経営委員会に辞表を提出し受理された。経営委員会は後任の会長に,橋本元一専務理事・技師長を昇格させた。笠井鉄夫副会長,関根昭義放送総局長も同日付で辞任し,副会長には永井多恵子元NHK解説委員が就任した。

04年7月に芸能プロデューサーが自分の担当する番組の制作に関連して,80回にわたりあわせて4,888万円余にのぼる不正な支払いを番組イベント会社に行い,このうち937万円を戻させて飲食費などに充てていたことが明るみに出た。この事件では,かつての上司2人が不正経理の疑いがあるとの報告を受けながら適切な処理をせず,内部の隠ぺい体質が問題となった。このほか,ソウル支局の元支局長が,外部の会社に経費を上乗せして支払い,上乗せ分を返金させて取材費などに充てていたことなど,不祥事が相次いで明るみに出て,視聴者から厳しい批判が起きた。

このため,衆議院総務委員会は9月9日これらの問題に関して閉会中審査を行ったが,NHKは審議の模様を中継放送せず,2日後に3時間40分の審議を1時間にまとめて放送した。中継しなかった理由について質問されたNHKが「編集権の問題」と答えたため,視聴者からは不祥事隠しと受け取られた。

一方,NHK職員の労組である日本放送労働組合は,受信料支払い拒否の拡大に危機感を持ち,11月末の時点で支払い拒否が増えているようなら経営責任を明らかにすべきだとする要求を11月10日にNHKに提出した。

受信料の支払い拒否・留保は広がりつづけ,11月末現在で不祥事が明るみに出て以降の累計が11万3,000件に達した。このあと,「NHKも被害者だ」などのNHK幹部の記者会見での発言が大きく報道され,視聴者の反発を招いた。

NHKは,12月19日に不祥事を検証する特別番組『NHKに言いたい』を放送し,海老沢会長が出演して陳謝するとともに,NHK改革を進めるための有識者懇談会を設置することや,視聴者の意見を反映させる機会を拡充することなどを明らかにした。

また,会長の進退については,「全職員を挙げて再発防止の取り組みと信頼回復のための抜本的な改革を進めており,こうした緊急の課題を軌道に乗せたあと,自分自身で判断したい」と述べた。

この番組によっても視聴者の不信は解消せず,受信料の支払い拒否・留保が増えつづけ,12月1か月間だけで10万件に達した。

一方,執行部をチェックする役割を果たすべき経営委員会が機能しているのかとの疑問が新聞などで報じられ,経営委員会は,任期満了で経営委員長が交代したのを機に専属の事務局を設置して機能を強化した。

このような状況のもとで,1月6日の会長記者会見のあと,海老沢会長が辞任を示唆したとの報道が流れ,辞任は時間の問題と見られていた。

海老沢会長は,25日の経営委員会で受信料収入が前年度に比して初のマイナスとなる05年度予算・事業計画案の承認を受け,総務大臣に提出したあと,辞任した。

奥田 良胤