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スタートしたインド国営テレビの衛星デジタル放送

インドの国営テレビ局ドゥールダルシャンの衛星デジタル放送 DD Direct+ が5か月近い試験放送を終え,12月16日,本放送を開始した。 記念式典にはマンモーハン・シン首相も出席し,国民の統合と民主主義の 発展にDD Direct+ が果たす役割に強い期待を表明した。

DD Direct+ はKuバンドによるDTH(直接受信)の衛星放送で, 視聴世帯がケーブルテレビを経由せず,小型のパラボラアンテナで受信 することができる。

またDD Direct+ は世界初の無料衛星放送で,視聴に必要なアンテナと セットトップボックス(STB)は購入(3,000~3,500ルピー,約7,500~8,750円) しなければならないが,視聴料金は掛からない。

本放送開始時点のチャンネル数は,テレビが33,ラジオが12となって いる。テレビチャンネルは半数以上がDD NationalやDD News,DD Sports, DD India(国際放送チャンネル)などドゥールダルシャンのチャンネルで, 残りはBBCやCNNのような外国チャンネル,そしてAaj Tak(ヒンディ語 ニュースチャンネル)やZee Music,Sun TV(タミル語チャンネル)など 国内の無料衛星チャンネルである。ラジオはすべて国営ラジオ局All India Radio(AIR)のチャンネルである。

ドゥールダルシャンが直接受信の衛星放送を無料で行う理由は, それが地上波放送の補完であるためである。インド唯一の地上波放送事業者 ドゥールダルシャンには2つの地上波チャンネル(DD National,DD News) があるが,基幹チャンネルDD Nationalでも人口の約90%(DD Newsは45%) にしか到達していない。残る10%の人々は山岳や半砂漠などの 過疎地域に住むため,地上送信施設を設置し維持管理していくのは技術的にも 経費の面でも困難が大きい。そこで到達した結論が衛星放送による補完であった。

国営放送局の監督機関であるインド放送協会(Prasar Bharati)は, DD Direct+ の試験放送期間,その普及促進を図るため地上波放送が受信 できない地域の学校や保健所など約1万の公共施設にSTBとアンテナを 無料配布した。

DD Direct+ に対する関心はかなり高く,これまで既に50万台以上の STBが売れたと伝えられている。インド放送協会は,2005年末までにテレビの チャンネル数を50に増やす計画で,その時までにSTBの普及台数は200万台, 最終的にはケーブルテレビが接続していない全国4,500万のテレビ所有世帯の うち2,000万世帯にまで普及するとの強気な予想を展開している。

インドでは2003年10月2日,国内のメディア企業Zee系列の衛星デジタル放送Dish TVが既に サービスを開始しており,ドゥールダルシャンのDD Direct+ の参入で, 国内に2つの衛星デジタル放送が誕生したことになる。インドでは更に, ードック氏傘下のスターが名門財閥タタと提携し,もう一つの衛星デジタル 放送Space TVの事業免許交付を待っている。近い将来,1つの国の中で3つの 衛星デジタル放送がサービスを競い合うことになるわけで,コンテンツの 確保や顧客の囲い込みなどに複雑な駆け引きが展開されそうである。

塙 和磨