メディアフォーカス

放送事業者へのメディアの出資問題で総務省が調査

総務省は2004年11月17日,全国の民間放送事業者に対し,第三者の名義を借りて実質的に保有している株式などの状況について自主点検し,結果を1か月以内に文書で回答するよう求めると発表,委託放送事業者や役務利用放送事業者,コミュニティFMを含むすべての放送事業者521社に向け,11月19日付で情報通信政策局長名の要請を行った。 放送事業は,有限・希少な国民共有の財産である電波を利用していることから,放送による表現の自由と言論の多様性を確保する目的で,放送メディアの寡占化を排除するため出資比率(議決権の保有割合)や役員の兼務などが規制されている。“マスメディア集中排除原則”と呼ばれ,「電波法」第7条第2項第4号に基づく総務省令「放送局の開設の根本的基準」第9条の規定により,地上放送局への出資比率の上限が,地上放送のエリア(原則として県域)が重複する同一の地域では10分の1(10%)以下,重複しない他の地域では5分の1(20%)未満に制限されている。

読売新聞社は11月11日,放送局の株式に関し,第三者名義で自社が実質的に保有している放送局が42社(テレビ24社,ラジオ18社)あり,そのうちテレビ9社,ラジオ3社のあわせて12社について,マスメディア集中排除原則で定められた出資制限の上限を超えていたと発表した。これを受けて,総務省は,同社から事情を聞くなど事実関係の調査を進めていたが,その後,他の新聞社や放送局でも,読売新聞社と同様に,第三者の名義で実質的に制限を上回る株式を保有していたことが明らかになったことから,本格的な調査を行うことにした。

全国の民放局の株式に関し,読売新聞社以外で,実質的に自社で保有する第三者名義株の存在が明らかになった大手新聞社や民放キー局などは,次のようになっている(数字は判明社数とそのうちの省令違反社数)。

毎日新聞社(2社,なし) 産経新聞社(3社,なし) 朝日新聞社(3社,1社) 日本経済新聞社(5社,1社) 中日新聞社(14社,7社) 北海道新聞社(3社,2社) 日本テレビ(13社,なし) TBS(7社,1社) フジテレビ(53社,なし) テレビ朝日(10社,なし)ニッポン放送(21社,なし) 民放事業者の株式保有制限問題に関し,日本民間放送連盟の日枝久会長は,11月12日の定例記者会見で「個々の会社の問題」としながらも,「法令順守は放送事業にとって重要である。総務省の調査結果を待つが,各社は独立した企業として自ら点検し,問題があれば直ちに是正する必要がある」と述べている。また,衆議院総務委員会では,同問題について集中審議する検討も行われている。

なお,今年3月30日には,地上放送に関わるマスメディア集中排除原則を大幅に緩和する「放送局の開設の根本的基準」などの一部改正が行われた。放送事業者の経営基盤を強化し,地上デジタル放送を推進する狙いである。同改正では,放送エリアの隣接など一定の条件を満たす場合に地上民放局への出資比率のこれまでの「5分の1未満まで」から「3分の1未満まで」への引き上げ,合併や子会社化を容認,さらに,経営困難時に議決権の保有制限と役員兼務の制限規定を除外する特例措置,などが定められている。

東郷荘司