国内放送事情

テレビ報道における匿名化とは

~BPO「顔なしインタビュー等についての要望」をめぐって~

BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会は2014年6月、「テレビでのインタビューは顔出しを原則とし、安易な顔なしインタビューはすべきでない」という内容の要望を委員長談話の形で公表した。顔なしインタビューとは、テレビのニュースなどで後ろ姿や体の一部だけを撮ったり、顔にボカシやモザイクを施したりして匿名化した映像で行うインタビューのことである。

これに対して報道現場などから「現場の苦労がわかっていない意見だ」等の声があがり、新聞雑誌などでも様々な形で取り上げられた。報道現場には、個人情報保護法の施行以降、取材される側のプライバシーや人権への意識が高まり、やむなく顔なしインタビューにせざるを得ないという厳しい実態がある。一方、顔なしインタビューは、ごまかしやすいことから、証言インタビューの偽装の温床になるケースもこのところ相次いでおり、顔なしインタビューが日常化することで社会全体の匿名化が進むことを危惧する声もある。

顔なしインタビューというテレビ独特の問題に焦点化し、その実態と議論内容を詳しく見ていくと、報道の自由と人権・プライバシーの保護との関係や実名報道と匿名報道の問題など、今のテレビ報道、ジャーナリズムが抱えている課題が浮き彫りになってくる。

メディア研究部 塩田幸司/関谷道雄