国内放送事情

「調査報道」の社会史

~第2回 「調査報道」と「特別調査報道」~

「調査報道」という名称が特別な理由を持つにはわけがあります。日本のジャーナリズムが、公的機関や企業などからの発表を元に記事を作り、報道してきた、いわゆる「発表ジャーナリズム」のアンチテーゼとしての存在意義です。

「調査報道」とは、アメリカでInvestigative-Reportingと呼ばれる報道を、日本語にそのまま訳したものですが、ニュアンスが少し違います。「調査」というよりちょっと「捜査」的な要素を含んでいると言ったらいいでしょうか。この「調査報道」の重要な要素は、(1)発表でない、自前の情報、あるいはすでに廃棄された情報を、(2)独自の取材で掘り起こし、(3)自社のメディアを通じて報じるものです。これらの条件をもとにこれまでのニュースや報道を振り返ってみますと「調査報道」の捉え方が、ジャーナリストやメディア学者、研究者の間でも、漠然としていることがわかりました。発表でなければ、すべて「調査報道」だという認識のジャーナリストも少なくありません。そこで私が考えたのは、「調査報道」の(1)~(3)の要素のほかに、(4)取材対象が権力、権威ある人物や組織の不正、腐敗、怠慢などを、(5)報道することで他社が追随し、(6)読者、視聴者、さらに国民が関心を持ち、(7)これによって社会的影響を与えるの4点を付け加えることでした。この7つの条件を満たしたものを「特別調査報道」と名付けました。この定義で、過去の「調査報道」を見てみると、『文藝春秋』の立花隆氏の「田中角栄研究」や朝日新聞の「リクルート疑惑」、東京新聞の「商工ローン疑惑」、毎日新聞の「旧石器ねつ造疑惑」などが「特別調査報道」と言えます。

メディア研究部 小俣 一平