国内放送事情

連続インタビュー「情報社会のゆくえ」⑥

T部長、VOD配信サイト「第2日本テレビ」を熱く語る

日本テレビ・コンテンツ事業局次長 土屋敏男氏

10月末、日本で初めて放送局自らブロードバンド(BB)インターネットでの動画配信事業に乗り出す日本テレビ。「第2日本テレビ」と名づけられたその新事業の担当者に抜擢されたのが『進め!電波少年』などの話題作を手がけ、「T部長」の愛称でしばしば画面に登場した敏腕プロデューサー、土屋敏男氏である。

土屋氏はBB上で注文をうけて動画を配信するVOD(ビデオ・オン・デマンド)がビジネスとして成立するためには、たとえば風呂上り、寝る前のちょっとした時間を使って「笑ったり、泣いたり」するような、従来のテレビの隙間にある新たなニーズとスタイルを開拓する必要があり、そのためにはコンテンツの長さが3分から15分のショートサイズであることが大事と言う。世界の映画祭に出品された短編映画の秀作やスタジオジブリ推薦の短編アニメ、またアーカイブスに蓄積された50年分のニュース素材、そして人気バラエティ番組などを短く再編集したクリップが日テレのウェブサイトに連動したBB上の「映像コンテンツ商店街」の、「喜」「怒」「哀」「楽」に分かれた通りの各専門店に配置される。無料で会員登録した利用者は好みの通りの、好みの専門店を訪ね、そこで9円から99円の幅で課金される有料コンテンツを選んで視聴する。

これにより放送が終了したコンテンツが新たに収益をあげることになり、広告収入に頼り、無料放送を続けてきた民間放送局にとっては画期的なビジネスモデルの転換となる。土屋氏はBBの特性である双方向性を生かしたこの事業が軌道にのり、コンテンツがもたらす長期的な収益や利用者の意向がテレビ番組制作に還元されるシステムができれば、ただ1回の放送で高視聴率を獲得するために「広く浅い」内容に終始してきたこれまでの地上波テレビ番組とは違う、個性的で、深みのある表現、時代をこえる名作への挑戦もやりやすくなると言う。そして、他の放送局がBBでのVOD配信に二の足を踏んできた著作権処理の問題も、この新たなメディアが利用者に支持されて隆盛すれば自ずと解決するだろう、と言う。

「やってみなければわからない」というT部長こと土屋敏男氏の突撃精神が、「放送と通信の融合」の前に横たわる壁をいま突き動かそうとしているようだ。

主任研究員 七沢潔