番組研究

制作者研究<テレビ・ドキュメンタリーを創った人々>

【第2回】工藤敏樹(NHK)

~語らない「作家」の語りを読み解く~

テレビ・ドキュメンタリーの草創期に活躍した制作者を取り上げるシリーズ、2回目はNHKの工藤敏樹に焦点を当てる。

テレビ・ドキュメンタリーの草創期に傑出した番組を作った人々をとりあげ、その人物や作品群を読み解くシリーズ。第2回は、NHKの工藤敏樹(1933~1992)について、映画監督・テレビディレクターの是枝裕和さんが論じる。工藤敏樹は、1960年代半ばから1970年代前半高度成長期に、NHKのテレビ番組「ある人生」を拠点にして、ディレクターとして多くの特集ドキュメンタリーを制作し、同時代に生きる日本人の姿を描いた。代表作に『和賀郡和賀町~1967年・夏~』(1967),『廃船』(1969)』、『富谷国民学校』(1969、芸術祭大賞)などがある。これらの番組群の特徴は、特定の場における人々の離合集散を多声的(ポリフォニック)に描いていることである。番組は複数の人生や時間軸が重層的に流れ込んでおり、それらが交差したり衝突したりすることによって全体が形を現す。また、ナレーションも他に類を見ない独特のテンポと文体を持っている。私的なものを一切排除し、数字やデータにこだわったストイックな語り口でありながら、強い個性を帯びた文章。そこでは、ナレーションによって映像をなぞるのでなく、ナレーションによってむしろ映像を異化していく方法が採られている。工藤の作品群に流れる思想や方法論を、代表作の『和賀郡和賀町』に重点を置きながら解読する。

映画監督・テレビディレクター  是枝裕和
メディア研究部(番組研究)   東野  真