番組研究

中国人の対日イメージの原点を探る

~中国記録映画(1949~72年)が伝えた日本~

中央テレビ新影制作センターが保管する記録映画を題材に、映像アーカイブスを利用した研究の可能性を模索する。日中の国交が正常化してから35周年を迎える今、中国の人々の対日イメージは非常に悪化している。そうした事態を打開するためには、国交正常化以前の中国人の対日イメージがどのようなもので、それがその後、どのように変容してきたのかを明らかにする必要がある。中国の記録映画は、テレビが広く普及する1980年代後半まで、最も大きな影響力を持ったメディアだった。記録映画が伝えた日本情報を分析することで、中国人の対日イメージの原点を探ることができる。

1950年代、中国政府は「日本人民」を見方につけ、民間の友好的な交流を通じて政府を動かしたいという意図から、映画を通じて「日本の軍国主義者と日本人民は区別しなければならない」「日本人民は友好的な人々であり、中国人民の友である」というイメージを人々に植えつけようとした。1960年代、日本の安保闘争の模様を伝える映画を通じて、「アメリカ帝国主義との戦いの最前線に立つ日本人民」というイメージが広まった。1972年の田中総理の訪中を伝える映画では、「田中総理が過去の戦争で中国の人民に重大な損害を与えたことに深い反省の意を表した」ことが詳しく伝えられた。毛沢東時代の中国では、政策上の必要から戦争によって生じた反日感情や日本に対する憎悪は封印された。しかし、1980年代になり改革開放政策の推進とともに中国のメディアの活動は活発化し、日本に関する情報も増大した。そうした時に伝えられた日本情報は、歴史教科書問題、閣僚の問題発言、総理の靖国神社参拝といった、毛沢東時代の対日イメージに疑念を抱かざるを得ない情報ばかりであった。今日の中国人の対日イメージの悪化は、1980年代以降にメディアが伝えた歴史問題を中心とする日本情報によって、中国人の対日イメージが変容した結果だと見ることができるのである。

主任研究員 長井 暁