ことばウラ・オモテ

発売中か販売中か

新製品を売り出す場合のキャッチフレーズには、「新規発売」をみかけることが多いものです。

一方で「新規販売分」などという表現もみかけます。

「『発売中』はおかしい」という指摘を受けることがあります。

「発売」とは「売り出した瞬間」だから、それが続くのはおかしいという論拠です。

「製造中」、「準備中」などはよいけれど、「故障中」「発車中」などはだめだろうと言うのです。

日本語の時制(時間の前後関係を表す言い方)はあいまいな点が多く、現在、過去、未来、過去完了、現在進行などの表し方は厳密には決まっていませんし、直訳的な表現が多くなっているのも事実です。

では、時制表現はないのかというと、そんなことはなく、文としての意味で表しています。

ひとつの文ではひとつの時制を扱い、文が集合して作る文章としての整合性を保つのが決まりです。

「発売中」を使いたい心情もあります。「新規・新鮮・できたて」というような雰囲気を売っている間は保ちたいという要望です。

「販売中」ではただ「売っています」というだけのことで、「新たに・初めて」という意味は含まれないからでしょうか。

「発売中」はおかしいと言ってみても、多くの人が「おかしい」と思わなくなっているほど使われている現状では、許容せざるを得ないかもしれません。

日本語の時制は、単語レベルではない面倒くささがあり、それを単語で済まそうという広告文作者のせめぎ合いが見られます。

(メディア研究部・放送用語 柴田 実)