ことばウラ・オモテ

刷り込まれたことば

ある友人が「もうおれたちもウイローの年代だからなあ」となげくような口調で言いました。
「なんで、名古屋のウイローなんだろう?」と思って聞いていたのですが、「外郎(ういろう)」ではなく、『初老』のことではないかと思い当りました。彼はずっと、『初老』を「ウイロー」だと思っていたそうです。「初産、初孫、初陣」など「うい」と読む例があるからだそうです。

このように一ぺん覚え込むと、なかなか修正できない思いこみを俗に「刷り込み」ということがあります。

「刷り込み(Imprinting)」というのは、動物学者のコンラート・ローレンツが発見した行動習性で、ハイイロガンのひなが最初に目にした動く物体を追い歩く習性のことです。

「ウイローの年代」ではありませんが、だれしも1つ2つはこのような思いこみ間違いがありそうです。

思いこみとは別に、小・中学校で習い覚えた事項、字句はなかなか忘れないものです。

ところが、教科書の内容は時代により変化します。成人してからは、現在の教科書がどうなっているかなどはなかなか知る機会がありません。

世界の気候分類で、熱帯、温帯、寒帯などがありますが、温帯と寒帯の間を指すことばをどのように覚えていますか?

「亜寒帯」という人が多いと思いますが、今、学校で教えている主流は「冷帯」です。

気象台や校庭にある、白い箱「百葉箱」はどう読みますか? 「ヒャクヨーソー」という人は、昭和30年代半ば以前に小学校教育を受けた方が多いと思われます。現在、理科の時間では「ヒャクヨーバコ」と教えています。

地理の分野で使う専門用語「山地、山脈、高地」の違いもそうです。国土地理院が、区わけをし、それが学校でも取り入れられた区別です。「○○山地」と思っていたものが、「○○高地」になっているのを地図で発見することがあります。

国土地理院によれば、「山地とは、近くの突起部をいい、山地、山群、山系、山脈などの内、もっとも一般的な呼称で、いくつかの山の集まりが一つのまとまりをなしている地域。 山脈とは、山地のうち、特に顕著な脈状をなす地域。高地とは、山地のうち、起伏はさほど大きくないが、谷の発達が顕著であり、表面のおしなべて平坦な地域。」だそうです。

つまり、「山地」の中の「表面のおしなべて平坦な」グループが「高地」となるようです。

北見、手塩、出羽、関東、四国などは「山地」、北上、阿武隈、飛騨、丹波などは「高地」とされています。

しかし、植物生態学では、標高差という別の意味を「山地、高地」に持たせています。同じことばでも専門分野毎に微妙に違った意味を持つこともあるので要注意です。

(メディア研究部・放送用語 柴田 実)