最近気になる放送用語

「ありがとうございます」?

上司から用事を頼まれて「はい、ありがとうございます」と返事をしたところ、変な顔をされました。

最近「ありがとうございます」が、これまでとは違った場面で使われることが目立ち始めています。意識しないで使っている人は、相手に違和感を与えることもあるので、注意しておきましょう。

解説

「ありがとうございます」は、もともと「(そうあってほしいと願っていても普通このようなことは)そうそうあるものではありません(=有り難い)」という意味です。相手がしてくれたことに対してこう言うことによって、感謝の気持ちを表すものです。一般的に、【自分が恩恵を受けた】場合に使います。

ところがこのごろ、【自分が恩恵を受けた】とは考えにくい場面で「ありがとうございます」を使う人が結構います。たとえば次のようなものです。

  (上司)「これ、10部コピーとっておいて。」

  (部下)「はい、ありがとうございます。」

これまでの習慣から言えば、「かしこまりました」「承知いたしました」などと言うべきところだと思います。この新しい使い方のことを、「ありがとうございますの『了解』用法」とでも呼んでおきましょう。

想像ですが、「かしこまりました」「承知いたしました」では硬すぎるし、「了解しました」だとやや冷たい印象を与えかねないという発想から、「ありがとうございます」が選ばれているように考えています。またその背景として、チェーン系の居酒屋などで注文を受けたときの「ありがとうございます!」「喜んで!」といった返事を聞き慣れてしまっていることが挙げられるかもしれません(ただしこの居酒屋での「ありがとうございます!」は、「注文をしてくださりありがとうございます」という意味としてとらえられるので、大きな問題はありません)。

ウェブ上でアンケートをおこなってみたところ、このような「ありがとうございます」の使い方に接したことがある人は全体としてそれほど多くはないものの、若い世代を中心に目立ち始めている様子がうかがえました。このような使い方を問題ないと考える人は、(まだ)少数派です。

コピーを頼まれたときの「ありがとうございます」という返事が、「雑用もすべて人生勉強です」という謙虚な気持ちから自然に出てきているのならよいのですが、おそらくそうではないと思います。でもまあ「ありえねー」と返事するよりは、ずっとましではあるのですが。

「ありがとうございます」?:(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2012年7月~8月実施、343人回答)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)