最近気になる放送用語

「~してあげる」?

料理番組の先生が「お肉にたれをよくもみこんであげます」と言っていましたが、どこかおかしな感じがします。

おそらく、このような言い方はこれからじわじわと増えていくような気がします。ですが、現時点では違和感を覚える人のほうが多いことを知っておく必要があるでしょう。

解説

ふつう、「~してあげる」と言う場合には、その動作によって〔恩恵〕を受ける人(あるいは動物・植物)が存在することが前提になっています。

 「教えてあげます。」←聞き手が〔恩恵〕を受ける

 「(Aさんに)教えてあげなよ。」←Aさんが〔恩恵〕を受ける

では、「お肉にたれをよくもみこんであげます」の場合に〔恩恵〕を受けるのは、だれでしょうか。選択肢としては、「聞き手(=視聴者)」か、「お肉」か、あるいは「できあがった料理を食べる人」のいずれかだと思います。まず「聞き手」は、この場合はありえません。次に「お肉」については、たれをもみこまれるのは「お肉」自身にとって〔恩恵〕でもなんでもありません(むしろ迷惑かも)。最後に「できあがった料理を食べる人」については、確かにそうかもしれないのですが、たとえば自分で作って自分で食べるような場合のことも考えると、「一人で〔恩恵〕をやりとりする」という変なことになってしまいます。

つまり、「だれが〔恩恵〕を受けるのかがはっきりしない」ところが、違和感につながっているのです。

一方で「~してやる」という言い方の場合には、よく似た用法はかなり昔からあります。たとえば電子計算機に関する論文に、「(この装置に)観測値を代入してやれば、極めて複雑な計算式の最終結果だけが短時間の内に得られることとなった。」(『生産研究』1952年4月)という表現があるのをたまたま見つけました。このような「~してやる」の使い方は、数学の世界ではかなり一般的であるようです。特定のだれかが〔恩恵〕を受けるということではなく、そうすることによって「答えが出る/状況が好転する」というところがクローズアップされた用法(=「結果的に望ましい状態になる」)だと考えれば、「お肉にたれをよくもみこんであげます」と共通するものだと言えるのではないでしょうか。

ですが一般的な言い方としては、おかしいと感じる人が多いことが調査の結果からわかっています。番組のコメントを書くときなどに、参考にしてあげてください。

看護士が患者に「ご自分で腕をよくもんであげてください」は…(NHK放送文化研究所 無作為抽出、全国男女2000人対象(1363人回答、1999年11月実施)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)