最近気になる放送用語

「~てございます」?

「準備してございます」というのは、おかしな言い方なのでしょうか。

これは言い方としては決して間違ってはいないのですが、最近ではおかしいと感じる人も多くなりつつあります。「準備してあります」というような言い方で十分な場合に「準備してございます」と言うと、おおげさな感じがします(クールビズがふつうである場所にタキシードの正装で行くような感覚でしょうか)。使い方に気をつけないと、ことばだけが妙に取り澄ましていて冷たい印象すら与えることもあります。

解説

「ございます」は、「ある」の丁寧な言い方です。存在を表す使い方のほかに、「お暑うございます」「お久しぶりでございます」のように、形容詞・名詞の後ろにつく補助的な用法もあります。

「準備してございます」は、「準備する」という動詞の後ろに「てございます」が付いています。このような「動詞+てございます」は、昔の小説などにもよく見られます。

・「あちらの方に煖炉(だんろ)が焚いてございます。」(森鴎外「鼠坂」1912年)

・「お塩で味がつけてございます。」(島崎藤村「夜明け前」1936年)

・「卵は半熟が用意してございます。」(坂口安吾「本因坊・呉清源十番碁観戦記」1948年)

ところが、このような言い方に対して違和感を覚える人が最近増えています。ウェブ上でおこなったアンケートの結果では、「準備してあります」と「準備してございます」を比べた場合に、後者の「準備してございます」はおかしいという回答が、若い年代になるほど多くなっていることがわかりました。

ある言い方が「正しい」かどうかという判断は、永久不変のものではなく、時代によって変わってきます。それまで間違った言い方だとされてきたものが、あるときから一般に広く受け入れられることがあります。その反対に今回の「~てございます」のように、それまでも使われてきた言い方に対して「おかしい」と感じる人が多くなることも、ござるのです。じゃなかった、あるのです。

「準備してあります」?「準備してございます」?(ウェブ調査、2011年1-2月NHK放送文化研究所実施、519人回答)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)