最近気になる放送用語

「号泣」?

「声を押し殺して号泣していた」という言い方は、おかしいのでしょうか。

「号泣」は「大きな声を出して泣き叫ぶ」というのが本来の意味です。声を上げずに涙を大量に流しているような状況で使われることが増えていますが、これには違和感を覚える人も多いので、注意しましょう。

解説

号泣の「号」の字は「大きな声を出す」という意味で、「怒号」や「号令」といったことばにも使われています。

この字の意味からすれば、「号泣」する場合には必ず大きな泣き声を上げていなければならないはずです。ところが「映画を見ていて号泣してしまった」といったような言い方が、最近増えています(映画館の中で本当に「号泣」されたら、ちょっと迷惑だと思います)。

「号泣」の意味について、アンケートをしてみました。「大声で泣くこと」と「声を押し殺し大量の涙を流して泣くこと」のどちらを指すかを尋ねたものですが、若い人ほど「声を押し殺し~」という回答と「どちらも正しい」が多くなっていました。つまり、「泣き声を伴わない『号泣』」は若い人に特によく受け入れているのです。またこの傾向は、どちらかというと男性よりも女性のほうに強く見られます。

このように漢字のもとの意味とは異なった用法がよく使われているほかの例として、「奇特」ということばが挙げられます。「奇特」の「奇」はもともと「めったにないほどすばらしい」という意味で使われています(「奇才」「奇観」など)。「奇特」は本来は人の行為や心がけなどについて「めったにないほど立派で感心だ」ということを表すのに使われていたのですが、最近では「おかしな行動をする人」という意味で使われる場合が多くなっています。これも、アンケートの結果で「若い人ほど『奇特』を『変な人』という意味で解釈する」という結果が得られています。

このコーナーでは、ことばの一つ一つの意味・用法を細かく観察するように心がけているつもりです。本来の用法としての「奇特」な執筆者でありたいと願っているのですが、ときどき最近の意味での「奇特」であるという印象を与えてしまっているかもしれません。なるべく気をつけますので、今後ともよろしくお付き合いください。

「号泣する」の意味は・・・(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2009年6月~7月、720人回答)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)