最近気になる放送用語

「たくさんの人」?

放送で「たくさんの人が来ています」と言ったところ、おかしいのではないかという指摘を受けました。

言い方としては特に大きな問題があるわけではありません。ただ、「『たくさん』というのは『もの』に対して使うことばで、『人』の場合には使わないほうがよい」と感じる人もいるので、番組の内容や話題・場面によっては「 大勢(おおぜい) の人」というような別の言い方をする気配りも必要でしょう。

解説

「たくさん」というのは、数量が多いことを表すことばです。いっぽう「大勢」というのは、「人の数が多いこと」を表すのに限定された言い方です。

日本語では、「人・動物」に対しては「いる」を使い、それ以外のものには「ある」という言い方をすることからもわかるように、「人」の場合と「もの」の場合とで別のことばを使うような傾向がしばしば見られます。「乗客を満載した電車」と言うと、なんだか人間が「もの」扱いされているような感じがするのも、この例の一つです。

ただし、「たくさん」と「大勢」の場合、「大勢」が「人専用」であることは間違いないのですが、「たくさん」は「もの専用」なのではなく「もの・人兼用」であると言えそうです。「人」に対して絶対に「たくさん」と言ってはいけないということではないように思います。

また、「たくさんの人」という言い方に違和感がもたれるかどうかは、話題・場面によっても異なります。NHK放送文化研究所がウェブ上でおこなったアンケートでは、A「たくさんの人が来ています」はOKでも、B「たくさんの人が亡くなりました」はダメだと感じる人がある程度いることがわかりました(2008年9~10月実施、1072人回答)。つまり、特に人間の尊厳にかかわるような話題の場合には、「大勢」という「人専用」のことばを選ぶのが望ましいと言えるようです。

「ことばの細かい使い方にまで気を使うのはもうたくさんだ」と感じる方が大勢ではないことを祈っています。今年もよろしくお願いいたします。

A「たくさんの人が来ています」、B「たくさんの人が亡くなりました」(ウェブ上アンケート)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)