最近気になる放送用語

「がぜん」?

「こちらのほうが、がぜん優れています」と言ったら、おかしいと指摘されました。

「がぜん」は、もともと「(それまでの状況と変わって)急に」といった意味です。さいきん、言いたいことの「強調」を表す目的で使われるのをときどき耳にしますが、これは本来の使い方ではありません。

解説

「がぜん(俄然)」の「俄」は「にわかに」という意味で、「然」はそのような状態にあることを示すことばです。「がぜんやる気が出てきた」などといったように、「急に」というような意味を表すときに使うものです。

ところが、これが「強調」の意味で使われ始めているようです。その背景には、

  1. 話しことばとしてふだん頻繁に使うものではないため、本来の意味とは異なる誤解がされやすい
  2. たとえば「がぜんやる気が出てきた」という文を耳にした人が、これを「とてもやる気が出てきた」と解釈したとしても、それほど大きな問題にはならない
  3. 「ガ・ゼ」といった濁音が、何となく強調表現としての勢いを感じさせる
  4. 発音の似ているものとして「断然」があり、ここからの類推が働いた

などといったことがあるように考えています。

実は、この「『がぜん』を強調の意味で使う」というのは、昭和の初期に流行したことがあります。「流行は繰り返す」のでしょうか。

また、強調表現として「イキナリおいしい」というような言い方も出てきているようです(これは特定の地域だけの若者ことばにとどまっていますが)。「急に」を表すことば(がぜん、いきなり)が強調表現として使われる点が共通していますね。

年末が近づいてきて、がぜん忙しくなってきました。ここで紹介した「がぜん」のどちらの意味でも、みなさんには当てはまることと思います。よいお年を!

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)