最近気になる放送用語

「本当ですか?」

自分の作った番組を、ある目上の人がほめてくれました。ところが、私が「本当ですか?」と返事をしたところ、変な顔をされてしまいました。

「本当ですか?」ということばの使い方として違和感を与える例が、最近増えているように思います。目上の人からほめられた場合、伝統的な日本語表現としては「恐れ入ります」「まだまだこれからです」などと言うべきであって、発言の真偽を問うような「本当ですか?」というような言い方はすべきではない、という習慣があることを再確認しておきましょう。

解説

まず、「本当ですか?」がこのように使われるようになった背景について考えてみます。
互いに親しい間柄(対等な関係)では、次のような会話が成り立ちます。

A(対等) :あの番組、おもしろかったよ。
B(あなた):本当?

この場合の「本当?」には、親しい相手に対して軽い驚きとともに、うれしさを表すような効果があります。
ここで、「A」が目上の人だったとしたら、どうなるでしょうか。

A(目上) :あの番組、おもしろかったよ。
B(あなた):本当ですか?

これは、きちんと「ですます体」の文を使っており、文法的には問題のないやりとりです。しかし、日本語を話す人たちの培ってきた文化として、このような場面では(実際には相手との関係の深さにもよるのですが)「本当ですか?」という返答はしないものとされてきたのです。「~ですか?」には「疑念」を表明する効果があり、この場合に軽い気持で「本当ですか?」と言ってしまうと、「A」の人は「自分がほめてやっているのに、そのことばが信じられないのか」というように感じることがあります。

せっかく相手に敬意を表そうとしているのに、それが逆に解釈されたら意味がないですよね。親しい間柄どうしでふだん使っていることばをそのまま「ですます体」に直した「タメグチの単純デスマス体変換」は、必ずしも「正しい敬語表現」にはなりえません。

敬語の使い方は変化しつつあり、「本当ですか?」の位置づけも今後変わってくるかもしれませんが、現時点ではまだ要注意の表現だと言えます。

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)