最近気になる放送用語

暮れなずむ?

中継で「こちらはもうすっかり暮れなずんでおります」と言ったら、それは本来の使い方ではない、と上司から指摘されました。

「暮れなずむ」というのは、完全に日が暮れそうでなかなか暮れないでいる状態、つまり日が暮れかかってから真っ暗になるまでの時間が長いことを表します。「暮れなずむ」を「(すでに)日が暮れた」という意味で使っているのだとしたら、それは本来の使い方ではありません。

解説

「暮れなずむ」ということばのなりたちについて考えてみましょう。

まず「なずむ」という動詞があります。これは「水・雪・草などに阻まれて、なかなか思うように前に進めないこと」を表す伝統的なことばで、古事記や万葉集にも出てきます。このような意味から広がって、物事がなかなかうまく進まなくなること、また、しようとしていることがうまくいかずに思い悩むこと、なども表すようになりました。

「暮れなずむ」というのは、この「物事がなかなかうまく進まなくなること」の意味を生かしたことばです。「暮れなずむ空」「暮れなずむ春の日」などのように使います。

なお「暮れなずむ」と近い意味のことばとしては、「春の季語」の「暮れかぬる(「暮れかねる」という意味)」「暮れ遅し」「夕長し」なとがあります。これらも、暮れそうでなかなか暮れない状態のこと、春の日足の長いことを表します。

「暮れなずむ」の本来の意味を覚えておいてください、というのが、私からのささやかな「贈ることば」です。

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)