放送現場の疑問・視聴者の疑問

「里帰り」の本来の意味は?

今年も夏休みの時期を迎えましたが、「(夏休みに)家族ぐるみで里帰りしました」などという言い方を放送でも耳にすることがあります。「里帰り」は、本来「新婦が実家に帰ること」を指して言うことばだと思うのですが…。

「里帰り」の本来の意味は、そのとおりです。今では「(休暇で)一時的に故郷へ帰ること」という広い意味でも使われていますが、放送で一般的に伝える場合には「帰省(する)」「帰郷(する)」などと言うほうがよいでしょう。放送にあたっては、その語の本来の意味や使い方をよく把握したうえで使うことが必要です。

解説

「里帰り」については、ご指摘のように「結婚後、女性が(初めて)実家に帰ること」が本来の意味です。しかし、近年は使い方が広がり、「よそで働いている(よそに行っている)人が、(休暇で)一時的に実家や故郷に帰ること」といった意味でも使われることが多くなっています。主な国語辞書は本来の意味に加えて、このような広い意味での使い方も載せています。

この「里帰り」については、私が北海道の函館放送局に勤務していた昭和50年代中ごろに次のような体験をしたことがあります。大相撲の関脇千代の富士関(現在の九重親方)が大関、横綱と昇進して故郷の福島町に帰ってきたとき、「千代の富士関が里帰り・・・」と伝えたところ、放送後に視聴者から「本来の使い方ではない」「『帰郷』か『帰省』と言うべき」などという電話を何本か受けました。このような使い方に対する抵抗感や違和感は、年輩の方を中心に今も強いようです。

放送(ニュースや情報番組)で一般的に伝える場合には「帰省(する)」「帰郷(する)」「ふるさとに帰る」などと言うほうがよいでしょう。

また、「里帰り」が、人だけでなくモノ・物について使われる例も多くみられます。例えば、「鑑真和上(像)が中国へ里帰り」「戦前、日本から贈られたワシントンの桜が里帰り」「江戸時代の○○作の浮世絵がロンドンから里帰り」といった使い方です。このような擬人化した言い方や比喩的な語法は、放送や活字メディアでよく出てくる表現です。こうした使い方のうち、「美術品の永久返還などで『里帰り』とするのは誤用」「国外に流出していた美術品が買い戻され、その後も国内にある場合は一時的ではないから、『里帰り』は誤用」と『記者ハンドブック』や『用字用語ブック』に記している社もあります。

ことばの使い方を必ずしも狭い意味だけに限定する必要はないでしょうが、放送にあたっては(1)まず本来の意味や使い方をよく把握・認識すること(2)そのうえで個々の状況や必要性に応じて的確・適切な表現をさらに工夫・検討していきたいものです。

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)