放送現場の疑問・視聴者の疑問

「エレベーー」「コンピューター」の表記

東京で起きたエレベーター死亡事故のニュースで、「エレベーター」と「エレベー」の2とおりの書き方や読み方をしていました。同じような例を「コンピューター」(「コンピュー」)でも見たり聞いたりします。放送での取り決めのようなものがあるのでしょうか。

製造元の企業名や団体・組織名といった固有名詞の場合を除いて、普通は「エレベーター」「コンピューター」と、語の終わりに「長音符号」の「ー」を付けて表記しています。読み方も、このとおりに「長音」で読んでいます。

解説

「エレベーター」については、戦後版としては初めてのNHK『日本語アクセント辭典』(昭和26年)と『外来語集』(昭和28年)では、いずれも「エレヴェーター」(下線は筆者)と今は使わない書き方ながら語尾は発音と表記がともに長音になっています。その後、昭和29年(1954)に国語審議会が発表した「外来語の表記」には、「外来語表記の原則」として「1.外来語は、原則としてかたかなで書き、別表『外来語を書くときに用いるかなと符号の表』の範囲内で書く」「2.慣用の固定しているものは、これに従う」などとあわせて、原語(特に英語)のつづりの終わりの-er、-or、-arなどをかながきにする場合には長音符号『ー』を用いる、という原則が掲げられています。これに続いて、具体的な語例として「ライター(lighter)」と「エレベーター(elevator)」が示されています。

その後NHKでも、この原則に合わせる形で英語などのつづりの終わりが-er、-or、-arなどの語については長音符号を付けて書くことや、つづりに〔V〕のある語の書き方などを含め外来語・カタカナ語の表記について決めています。

<例>

  • elevator→エレベーター[×エレベータ] [×エレヴェーター]
  • computer→コンピューター[×コンピュータ]

このように、ニュースや番組では一般に「エレベーター」「コンピューター」と表記し、語の終わりも長音で読んでいますが、例えば「○○エレベータ」「△△エレベータ協会」のように製造元の企業や関連の団体・組織で語尾に長音符号を付けていない固有名詞については、原則としてそのままの表記と読み方をしています。先日のエレベーター死亡事故のようなニュースで「エレベーター」と「エレベータ」という2とおりの書き方や読み方が混在するのは、一般名詞と固有名詞を使い分けているためです。

ところで、「エレベータ」「コンピュータ」という書き方は機械や電気・電子関係のいわば専門表記として用いられ、『学術用語集』の「機械工学編」と「電気工学編」でも語尾に長音のない表記が採用されています。こうしたことから、技術関係専門の出版物や雑誌には、これらの語はもっぱら長音なしで表記され、またメーカー特にエレベーターの製造会社には「○○エレベータ」や「××エレベータ製造」などと長音ではない社名が目立ちます。

(『NHKことばのハンドブック第2版』p.44、p.220~231、『NHK新用字用語辞典第3版』p.18参照)

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)