放送現場の疑問・視聴者の疑問

歌の「さわり」とは?

「歌のさわりを聞く」「(歌の)さわりだけを聞いてみましょう」などと言う場合の「さわり」は、歌のどこの部分を指すのでしょうか。私の周りの人たちの間では、「聞かせどころ」と言う人のほか「歌いだし」や「歌のどこか一部分」とみる人など、さまざまですが…。

本来の意味は「聞かせどころ」「いちばんよいところ」です。

解説

この場合の「さわり」は、邦楽の一つ義太夫節の用語に由来する表現です。「さわり(触り)」という語を辞書で引いてみますと「①さわること。ふれること。触れた感じ」という一般的な意味に続いて次のように記しています。「②ア(他の節(ふし)に触っている意)義太夫節の中に他の音曲の旋律を取り入れた箇所。曲中で目立つ箇所になる。イ転じて、邦楽の各曲中の最大の聞かせ所。『くどき』の部分を指すことが多い。ウさらに転じて、一般的に話や物語などの要点、または最も興味を引く部分。『―だけ聞かせる』(以下略)」(『広辞苑』岩波書店)

このように本来は義太夫の「聞かせどころ」「聞きどころ」にあたる語・ことばが、話・物語や小説、歌など一般的な場合にも使われるようになりました。したがって、「歌のさわりを聞く」「この歌のさわりをちょっと歌いましょう(歌ってみましょう)」などと言う場合の「さわり」は、その歌の「聞かせどころ」「いちばんよいところ」を指します。

ところで、ご質問にもあるように「歌のさわり」の「さわり」について、本来の意味である「聞かせどころ」のほかに、「歌いだし」や「歌のどこか一部分」と思っている人も多いようです。 この語・ことばについて、NHKでは平成4年(1992年)4月に全国の満20歳以上の男女2,000人を対象に調査しました(個人面接法)。その結果、「『歌のさわり』という場合、『さわり』とはどういう部分を指すと思いますか」という問いに、本来の「聞かせどころ」と答えた人は36%にとどまりました。これに対し、「歌いだし(イントロ)」と答えた人が20代、30代を中心に33%もおり、「どこか一部分」と答えた人(21%)を合わせますと、全体の半数以上の人たちが「歌のさわり」を本来の意味・部分とは違う解釈をしていました。

この調査結果について、NHK放送文化研究所の当時の用語担当者は、「(動詞『触る』は)イメージとしては、重々しいニュアンスを含んだようなことばではない。名詞『触り』にも、そのような軽い感じの語感がある」と記したうえで、次のように分析しています。「音韻的にみても、さわりsawariは、柔らかい音サで始まり、明るい響きの母音aが連続した3拍語である。したがって、音感からみても、『さわり』は、どちらかと言うと、物事の基本部分や中心部分を指すよりも、周辺部分やどこか一部分を指すイメージを与える。『さわり』の本来の意味を知らない人にとっては、この語を耳から聞いて、または文字から見て『歌い出し』または『どこか一部分』を連想しても、あながち不自然なことではないと言える」

(『放送研究と調査』1992年7月号 最上勝也)

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)