放送現場の疑問・視聴者の疑問

「舌鼓」の読み

おいしいものを食べたときなどに使われる表現に「舌鼓を打つ」という言い方がありますが、この「舌鼓」について[シタツズミ]と[シタズツミ]の二とおりの読みを耳にします。放送での読み方は、どのようにしているのでしょうか。

「舌鼓」の伝統的な読みは、[シタツズミ]です。これに加えて慣用的な読みの[シタズツミ]も一般に広く行われているため、放送では(1)[シタツズミ](2)[シタズツミ]にしています。

解説

「舌鼓」については、キリスト教イエズス会から派遣された宣教師たちが慶長年間(慶長8年・1603年)に作った日本語とポルトガル語の辞書『日葡辞書』にも「シタツヅミ」で出てきます。『邦訳 日葡辞書』(岩波書店発行)によりますと、「Xitatçuzzumi シタツヅミ(舌鼓) 人がおいしく味わって飲み終えるときなどに舌を鳴らすこと.(以下略)」と記述してあります。また、昭和18年(1943年)発行の『日本語アクセント辭典』(日本放送協會編)にも「シタツヅミ 舌鼓」と記されています。このため、[シタツズミ]の読みだけを放送では認めてきました。しかし、その後[シタズツミ]も慣用的な読みとして一般に定着し、多くの国語辞書も、「舌鼓」についての語釈(ことばの意義の解釈)の中で「『したづつみ』とも」「口語では『したづつみ』とも言う」「話し言葉では『したづつみ』とも言う」などと記述しています。こうしたことから、今では放送でも「舌鼓」の伝統的な読みである[シタツズミ]に加えて、[シタズツミ]も許容として認めています。

「舌鼓」について、NHKの『日本語発音アクセント辞典』には[シタツズミ,(シタズツミ)]、また『ことばのハンドブック第2版』には「読み(1)シタツズミ(2)シタズツミ」と記してあります。この『アクセント辞典』の「発音表記の( )内」と「『ことばのハンドブック』の「読みの(2)」については、「場合により許される発音・アクセント(読み)」を示すものです。アナウンサーが、ニュースや一般番組で「舌鼓」を普通に読む場合には[シタツズミ]と読むようにしています。

「舌鼓」と同じ「鼓」を使った語の「腹鼓」についての読みも、かつては[ハラツズミ]のみを認めていましたが、現在は同じように[ハラズツミ]も許容しています。

(『NHK日本語発音アクセント』辞典P375,『NHKことばのハンドブック第2版』P93参照)

*注 [ ]内のカタカナ表記は、そのことばの発音を示したもの(発音表記)で、普通のかなづかいによる表記とは必ずしも一致しません。 例. [シタツズミ]「したつづみ」

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)