放送現場の疑問・視聴者の疑問

「初戦」と「緒戦」

高校野球などスポーツの大会の模様を伝えるテレビニュースや新聞記事で、「初戦」と「緒戦」、[ショセン]と[チョセン]という表記や読みを見たり聞いたりします。意味などは、どのように違うのでしょうか。

「初戦」は「第1戦」「最初の戦い・試合」、「緒戦」は「戦い・試合の始まったころ」「戦い・試合の初めの段階」を指します。読みについては「初戦」は[ショセン]。「緒戦」には[ショセン]と[チョセン]の両方の読みがありますが、[ショセン]が伝統的な読みで[チョセン]は慣用読みです。

解説

「緒戦」と「初戦」という用語・ことばについて明治以降現在までに出されている主な国語辞書(計106冊)を調べたところ、戦前の辞書には「初戦」はなく、「交戦の始期」「交戦のはじめ」の意味を示す「緒戦」しか載っていませんでした。これらの辞書の中で「初戦」が登場するのは戦後になってからです。また、漢和辞典でも「緒戦」の用例はありますが、「初戦」はありません。しかし、「初戦」は「何回か行われる戦闘や試合の、最初の戦い」(『日本国語大辞典』小学館)という意味で軍関係者の間では古くから使われていたようです。

次に、「緒戦」と「初戦」のうち、「緒戦」の読みについてみますと、「緒」の主な字音(漢音)は[ショ]で、「緒戦」の伝統的な読みも[ショセン]です。しかし、「情緒」[ジョーチョ]「端緒」[タンチョ]のように「緒」の慣用的な読み方に[チョ]があり、「緒戦」を旧日本軍では[チョセン]と読んでいたそうです。

こうしたことから、もともと漢語には「緒戦」しかなかったものが、「緒戦」の伝統的な読みの[ショセン]と同じ字音で意味も似ている「初戦」が後から登場したとみられます。そして、「戦いの初めの段階」を意味する「緒戦」と並び、「最初の戦い」という意味での「初戦」が一般的にも多用されるようになり、日本語での今のような意味の使い分けと読みが定着してきたようです。

日本新聞協会の『新聞用語集』は、次のように使い分けを示しています。

  • しょせん=初戦[第一戦]シリーズの初戦に勝つ 
  •       =緒戦[戦いの始まったころ]緒戦の優勢が後半戦で逆転

放送でも、表記と意味の使い分けや読み方を次のようにしています。

  • 初戦=「第1戦」(最初の戦い・試合) 読みは[ショセン]
  • 緒戦=「戦いの始まったころ」(戦い・試合の初めの段階)
    読みは[ショセン][チョセン]

実際のスポーツ中継などでは、「初戦突破」などという言い方で「初戦」が多用されているようですが、「初戦―第1戦を勝ちました(突破しました)」「初戦―最初の試合で敗退しました(負けました)」などと、なるべく言いかえや言い添えをしたほうがよいでしょう。

(『NHK新用字用語辞典』P269、『NHK日本語発音アクセント辞典』P430、P571、文化庁編『言葉に関する問答集』P155参照)

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)