放送現場の疑問・視聴者の疑問

「多士済々」の読み方は?

「すぐれた人材がたくさんいること(様子)」を意味する「多士済々」について、「たしせいせい」と「たしさいさい」の二とおりの言い方を耳にします。どちらでもよいのでしょうか。

放送では、本来の読み方である「たしせいせい」を使っています。

解説

「済」の音読みには、「さい」(呉音)、「せい」(漢音)があります。この漢字を使った「多士済々」は「たしせいせい」が伝統的な読み方ですが、「たしさいさい」という誤読も広がってきたことから多くの辞書は「たしせいせい[多士済々]」の見出し語で、「『たしさいさい』とも」と記述しています。しかし、辞書の中には「誤って『たしさいさい』とも言う」と明記しているものもあり、「たしさいさい」への違和感・抵抗感は強いようです。放送でも伝統的な読みである「たしせいせい」を使っています。

私もNHKに入るまでは、「多士済々」は「たしさいさい」だと思い込んでいました。ところが新人時代のある時、部内の会合でこの言い方をしたところ「それを言うなら『たしせいせい』だ!」と先輩記者から即座に注意されたことがあります。その時には「なにも満座の中で間違いを指摘して恥をかかせなくてもよいではないか」と少し恨めしく思ったものですが、「小言幸兵衛」などと嫌みを言われながらも若い人たちに端的に厳しく指導してくれた先輩たちのおかげで少しでも正しいことばづかいを身につけていくことができたと今では感謝しています。

(『日本語発音アクセント辞典』P531、『ことばのハンドブック』P111参照)

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)