放送研究と調査(月報) - 目次

各国の「放送界の動き」に関する情報を掲載しています。

放送界の動き

豪,テレビ国際放送が放送終了

オーストラリアの公共放送ABCは9月29日,政府からの委託契約に基づき運営していたテレビ国際放送「オーストラリア・ネットワーク」の放送を終了した。テレビ国際放送はこれまで,外務貿易省が運営資金を拠出し,アジア太平洋地域の46か国に向けて番組を放送してきた。しかし,労働党政権時代に締結した10年契約の1年が過ぎた時点の2014年初頭,現在のトニー・アボット保守連合政権がABCとの契約を破棄して予算の廃止を決定したことにより,今回の放送終了に至った。ABCは放送停止後,インターネットを含めたマルチプラットフォームの国際サービス「オーストラリア・プラス」を開始,商業サービスによる娯楽,スポーツ,教育などのコンテンツ配信を実施している。

インドネシア,『クレヨンしんちゃん』を“ポルノ同然”と警告

インドネシアのメディア規制監督機関であるインドネシア放送委員会(KPI)は9月22日,同国でも人気の『クレヨンしんちゃん』や『トムとジェリー』など5つのアニメ番組について,子どもが視聴するには不適切な場面があるとして,放送しているテレビ局に改善を求めたことを明らかにした。KPIのアガサ・リリー理事は,「しんちゃんは,お尻を丸出しにしておどけたり,他人のデートをのぞき見したりする。露出度の高い服を着た女性も登場し,ポルノ同然だ」と述べている。KPIは番組を放送している商業局のRCTIに対し,こうした場面を削除するか,日曜朝ではなく遅い時間帯に放送するよう要請したが,強制力はない。今回の警告についてRCTIの総務担当幹部は,番組は子ども向けではなく若者向けだとして,要請には応じない方針を示した。

台湾,ケーブルテレビ事業者最大手買収の食品事業者に“低品質油”販売の不祥事発覚

台湾のケーブルテレビ事業最大手である中嘉網路を日本円で2,000億円以上の価格で買収する合意をした,大手食品事業者の「頂新グループ」が,動物の飼料用に使う油を食用油に混入していたことが10月8日,明らかになり,ケーブルテレビ事業者の買収が実現するか不透明になってきた。頂新はこの問題で,関連の食品会社3社の会長を務めていた魏応充氏が辞任したが,頂新グループでは2013年11月にも関連会社の味全が低品質の食用油を販売したなどとして検察の捜査を受けており,味全の事件では約1年後の2014年10月21日,魏氏が詐欺や文書偽造などの罪で起訴され,更に30日には懲役30年を求刑されるに至った。不祥事が相次いだ頂新がメディアを買収することに対して市民団体などの反対が強まっており,独立規制機関のNCCがどのような判断を示すか注目されている。

インド,DDがヒンドゥー至上主義団体総裁の演説を生放送

公共テレビ局ドゥールダルシャン(DD)の地上波ニュースチャンネルDD Newsが10月3日,ヒンドゥー至上主義団体で与党BJP(インド人民党)の思想的母体とされるRSS(国家奉仕団)のバグワット(Bhagwat)総裁が団員向けに行った演説を初めて生放送した。これに対し,会議派などほとんどの野党が「公共放送の乱用」としてDDを厳しく批判したが,与党側はこれまで生放送を拒んできたことこそ問題だと反論した。著名な歴史学者ラームチャンドラ・グハ(Ramchandra Guha)氏は,今後イスラム教やキリスト教の指導者が自分の演説の生放送をDDに要求する可能性を示唆し,DDの対応を批判した。RSSはイスラム教徒との抗争で先頭に立つなどヒンドゥー教徒の過激な団体として知られ,モディ現首相もかつてはメンバーだった。

インド,AIRが首相講話を放送し定例化へ

インドのナレンドラ・モディ首相は10月3日,初めて公共ラジオ局AIR(All India Radio)を通じて,自らの思いや政策を国民に訴える放送を行った。番組はMan ki Baat(心の中の事々)と題され,モディ首相は衛生環境の改善を積極的に進めるために政府が始めた運動への参加を訴えるなどした。番組はAIRのすべての電波を使い放送され,一部の商業FM局でも放送された。モディ首相は,今後も月2回ほど定期的に出演して国民への訴えを続けたいとしているが,公共放送をこうした形で活用することへの危惧の声も上がっている。