ドイツでは2016年に、公共放送の財源である放送負担金の値上げ問題をきっかけとして、公共放送改革の議論が16州政府の主導で始まった。議論は2つの方向で進んだ。1つは、公共放送の組織とサービスの合理化を進めて経費削減を求めるもので、もう1つは、動画配信サービスやソーシャルメディアの普及といった近年のメディア環境の変化を踏まえて、公共放送の任務規定から見直そうとする、より包括的なアプローチだった。しかし、これらの議論はなかなか成果に結びつかなかった。
2022年11月にようやく、後者の議論の成果として、放送法の改正が成立した。主な改正点は、デジタル情報空間における公共放送の任務の再定義、放送からインターネット配信へのより迅速な移行を可能にするサービス委託の形式の変更、内部監督機関の権限強化などである。
また、2022年夏に起きた公共放送のスキャンダルをきっかけに、ARD(ドイツ公共放送連盟)会長が、公共放送の組織とサービスの再編にまで踏み込んだ抜本的な改革が必要だとする提言を行った。これに答える形で、2022年11月以降、州政府側と公共放送側の双方で、改革に向けた取り組みが再始動し、現在も進行中である。
本稿では、2016年に始まり現在にまで続く、こうしたドイツの公共放送改革の紆余曲折した歩みを跡付けた。その中で、デジタル化の進展が、ドイツの公共放送の任務、組織、サービスのあり方にどのような課題を突きつけているのか、また、どのように解決が模索されているのかを明らかにした。
メディア研究部 杉内有介
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