香港の報道の自由,瀬戸際に

~香港国家安全維持法の衝撃~

公開:2021年1月1日

香港は1997年に中国に返還された後も,これまでは「一国二制度」の枠組みの中で,「報道の自由」を比較的享受してきた。しかし,2020年6月に施行された「香港国家安全維持法」では,国家の分裂・政権の転覆・テロ活動・外国勢力との結託について,最高で終身刑という処罰の対象とした。またメディア・インターネットなどに対する管理強化の方針も明記された。8月には,香港の大手メディアでほぼ唯一,中国政府に批判的な新聞「りんご日報」の創設者らが同法違反などの疑いで一時拘束され,同社が警察による家宅捜索を受けた。
本稿では,香港のメディア関係者16人へのオンラインインタビューを通じて,この法律のメディアに対する影響を考察した。多くの関係者が指摘したのは,そのあいまいさで,どのような行為が「扇動」「鼓吹」「外国勢力との結託」などにあたるかが,中国政府の恣意的な解釈で決まることへの危惧が強かった。また香港メディアの今後についての質問に対して,メディア関係者はほぼ一様に,短期的には希望が見えない,中国本土が変わるしかない,といった回答をしていた。
今後の頼みの綱としてネットメディアを挙げる声は多かったが,資金や人材の不足で十分な取材が行えないことなどの課題も明らかになった。さらに最近は「親中派メディア」が次々とネットに参入し,「網紅」というネット上のアイドルにYouTube上でしゃべらせるなど,若者の取り込みを進めているとの指摘もあり,中国の影響力行使の中,瀬戸際に来た香港の報道の自由の行方から目が離せない。

メディア研究部 山田賢一

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