共生社会への変革と放送の果たす役割

-東京2020パラリンピックを越えて-

公開:2019年1月30日

2020年東京パラリンピックの開催まで2年を切った。本稿は,パラリンピック大会をIPCが標榜する共生社会への変革運動と位置づけた時に,共生社会の実現に向けて放送の果たす役割を考察する。

まず,イギリスのチャンネル4と日本のNHKによる2016年リオ大会の放送を分析したうえで,チャンネル4の独自性として,選手紹介のVTRでパラリンピアンがバックストーリーを含め障害を自ら語る手法,障害者プレゼンターの起用および障害者の制作現場での登用に着目した。その背景を探るため,チャンネル4の関係者や番組制作プロダクション,放送に登場したパラリンピアンへのヒアリングを行った。また,チャンネル4の放送が国内のほかの放送事業者に与えた影響や,近隣のデンマーク,ドイツ,そして日本の放送事業者に与えた影響も検討に加えた。

調査によって,次のことが明らかになった。チャンネル4のパラリンピック放送は野心的な挑戦であり,視聴促進キャンペーンの映像は視聴者と番組制作者にあった障害者に対する既成概念や偏見を打ち破った。その放送は,スポーツとしての中継と選手の人間性を伝えることに成功し,その背景には制作サイドと選手との密接な信頼関係の構築があった。また,障害者を番組プレゼンターや制作スタッフに起用することによって,障害者の社会参加を進めるうえでテレビ業界における彼らの雇用の創出を図った。チャンネル4のパラリンピック放送以後,イギリスでは障害のある俳優やタレントが数多く一般番組に起用されるようになった。そして,障害者やBAMEなど社会的少数者の雇用促進という政治的・経済的な流れに沿って,この動きが加速している。一方,公共放送がパラリンピック放送を担当しているデンマークとドイツでは,大会放送時間が拡大するなど充実が図られたが,これを社会変革のチャンスととらえる考え方は希薄である。日本ではNHKが初めて障害のあるリポーターを公募・採用するなど,かつてない取り組みが行われている。チャンネル4は,障害者がテレビに出演し,テレビ業界で働くことは当たり前であるとする‘ニュー・ノーマル(新しい常識)’を掲げ,これはイギリスの放送業界全体にロンドン・レガシーとして共有されている。

我々は,放送の役割とは,社会を反映し,視聴者の共有体験を通して認知と理解が生まれ,それによって少数者の社会参画が促進することであると考える。放送による「反映,共感,参画」の継続的な連動が,共生社会を創造する。イギリスの例は,こうした放送の役割がパラリンピック大会を契機に強く機能し始めている。日本でも2020年の東京大会を,共生社会への変革に向けた出発点にすることができるはずである。日本の放送事業者が,とりわけ公共放送であるNHKが「共生社会」を再解釈し,東京大会のレガシーとして次の時代に何を残し伝えていくのかに注目し,このことを多くの人が議論することを期待している。

メディア研究部/渡辺誓司・中村美子

※NHKサイトを離れます

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