イギリスのOTT事情

公共放送BBCがけん引する無料視聴モデル

~OTTサービスと公共メディアの役割~

公開:2016年7月1日

本稿は、イギリスにおける、BBCをはじめ既存の放送局のOTTサービスの現状と将来戦略、課題を、2016年2月に行った現地調査の結果を基に報告したものである。2015年にNetflixやAmazon Prime VideoなどアメリカのOTT事業者の日本進出が相次ぎ、日本の放送業界にとっての「脅威論」も出る中で、海外ではどうなのか実態調査しようというのが問題意識であった。

イギリスでは公共放送BBCのiPlayerを初め、商業放送ITVのITVHub、非営利法人が運営するChannel4のAll4など各放送局がOTTサービスを展開している。いずれもオンデマンド視聴とライブ視聴を統合したサービスで、BBCは受信許可料で、商業放送は主に広告ベースで実施している。NetflixやAmazon Prime Videoはすでにイギリスに進出しているが、既存の放送局は世界に先駆けて独自のOTTサービスをすでに展開し広く利用されており、これら米国OTT事業者の直接の脅威を感じていないことがわかった。

しかし間接的な影響は見られる。「イッキ見」など視聴習慣の変化に合わせて絶えずOTTサービスの改良が求められる。OTT事業者により高騰する組制作費の影響も受ける。コンテンツの二次展開の権利を取得するため制作プロダクションの垂直統合の動きもある。どれをとっても既存の放送局にとって変革を迫られる課題である。

BBCでは今後もiPlayerを主要プラットフォームにさらに積極的にネット展開を図る方針だ。将来、ライブ視聴からオンデマンドへと比重が移ると予測されており、個々人にむけたサービスのパーソナル化が大きなカギと見られている。さらにiPlayerは英国コンテンツの海外展開の窓口としても期待されている、しかし、パーソナル化による視聴者の断片化やグローバルなメディアマーケットでの利益追求が行き過ぎると、イギリス社会で共有する体験や知識を提供するという公共放送がこれまで担ってきた役割が希薄になる恐れもある。ブロードバンド時代の公共放送は「OTTサービスの進化」と「公共的役割」の間でバランス感覚が求められる。

メディア研究部 田中孝宜

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