米FCCの地上波放送番組規制政策

~その理念と実態~

公開:1999年1月30日

アメリカにおける電気通信事業は,FCC(Federal Communications Commission,連邦通信委員会)の管轄下におかれている。FCCは「1934年通信法」に基づき設置された,合議制の独立規制委員会で,ラジオ,テレビ,電話,ケーブルテレビ,衛星放送を含む電気通信事業を規制監督する連邦政府機関である。その存立基盤を連邦議会が制定した「1934年通信法」に置いているため,FCCはしばしば,連邦議会の“腕”と呼ばれる。FCCは5人の委員で構成される議決機関,1700人の連邦公務員が所属する部局から成る。
アメリカでは,1920年に商業放送局がラジオの定時放送を開始した。5年後にはラジオ局が500局を超え,放送産業はすさまじい勢いで発展したが,放送を規制する法規が整備されないまま,放送事業者が好き勝手に電波を使用したため,各地で混信により番組が聴取できない事態が続発し,放送産業は“カオス”の世界に投げこまれた。しかし, 「1927年無線法」によって,放送の監督規制機関としてFRC(Federal Radio Commission,連邦無線委員会)が設置されると,FRCは混信の防除という技術的側面のみならず,放送事業を「公共の利益」に奉仕させるため,設立当初から,番組内容にも強い関心を示した。こうして,アメリカの放送産業はカオスの世界から一転して,今度は厳しい規制の世界に投げこまれることになった。
放送産業の発展とともに,FCCの番組規制政策は拡大され,司法府からその行き過ぎをチェックされることもあった。しかし,放送事業を「公共の利益」に奉仕させるために番組規制を実施するという,FCCの基本的な権限については,合衆国最高裁判所によって合憲判断が下された。FCCの番組規制政策は,“ブルーブック”から「1960年FCC番組政策声明」を経て,その基本的な要素が形成され,1996年には,商業テレビで放送する子ども番組の放送時間数の下限を週3時間とする,番組の量的規制にまで発展した。
本稿は,全体の構成を3章に分け,第1章でアメリカにおける地上波放送の現況と放送構造の特性,第2章でFCCの成立と機能,第3章でFCCの番組規制政策の理念と実態についてそれぞれ記述する。

放送研究部 向後英紀

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