ことば・言葉・コトバ

親切な人と優しい人はどう違う?

公開:2024年5月1日

先日,初めてチベット料理店に行った。留学生のチョドンさんに故郷の味を味わってほしいとお誘いを受けたのだ。日本語がすっかりうまくなった彼女の説明を聞きながら食べる料理はなじみやすい味つけで,どれもおいしかった。塩味のバター茶には少し驚いたが。

彼女は2020年3月末に来日。私がボランティアをしていた家の近くの日本語教室で出会い,コロナ禍の最中,1年半以上リモートで勉強やおしゃべりをした。

始めて間もないころ,「親切な人と優しい人はどう違いますか」と質問された。「形容動詞と形容詞」「漢語と和語」と性質の違いはあるが,そういう問題ではない。「親切は何かしてもらってうれしいとき,優しいは性格とか地球に優しいとかもっと広く使えるけど……」など,拙い英語でしどろもどろ。結局,次までの宿題に。

レッスン後,国語辞典を何冊も調べてみた。例えば「優しい:〔相手に対して〕思いやりがあるようすだ」「親切:本当に相手のためになるように,やさしくつとめる〈ようす/こと〉」(『三省堂国語辞典第八版』)のようにあるが,日本語初心者にはっきりと違いを説明できるヒントを見つけることはできなかった。

そして,あれこれ探すうち,日本語テキスト(『みんなの日本語初級Ⅰ』スリーエーネットワーク刊)の英語版解説書に,「親切[な]helpful, kind, considerate」という訳に加え,「not used about one’s own family members」という注釈を見つけた。

なるほど。確かに家族など身内に対して「親切」は使わない。「母は私たちきょうだいに優しい」とは言うが,「母は私に親切だ」とは言えない。他人が親のように親身になってくれるのが「親切」なのだ。当たり前に使い分けていたことに気づき,新鮮な感動を覚えた。そして,私はこの質問を機に日本語教育のおもしろさにはまり,資格をとって,現在,日本語学校で非常勤講師をしている。

今年,日本語教育は大きな変化を迎える。4月に「登録日本語教員」という国家資格の制度がスタートした(今までは民間資格)。在留外国人が増える中,日本語教員の質と量を確保しつつ,教員側の待遇改善も期待されている。専門性を持った親切な先生が増え,働く側にとっても優しい制度になることが望まれる。

メディア研究部・用語 東 美奈子

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