第1468回放送用語委員会(広島)2023年11月10日

具体的な描写を心がける
~「など」「すごい」の多用を避けるために~

公開:2024年2月1日

第1468回放送用語委員会が11月10日に広島放送局で開かれた。

外部委員として,脚本家の井上由美子氏,日本大学文理学部教授の野田尚史氏が出席し,広島・岡山・鳥取・松江・山口の5局が参加した。

当日の議論を整理して報告する。

◎「固定概念」という表現について

ダンスをするには地方は不利
固定概念を壊すために世界に挑戦

ダンスの映像と,テロップのみで構成される1分リポート。「世間の思い込み」といったニュアンスで「固定概念」ということばを用いたところ,「固定観念」と「既成概念」という2つのことばを混同して使ったのではないかと,放送後,X(旧Twitter)で,視聴者からの厳しい意見が飛び交ったという。

これについて,委員からは「“固定”と“概念”が合わさった複合語であり,意味が明らかに違うわけではない」と,比較的,寛容な意見が出た。

「固定概念」が日本語として間違っているとは言いきれないが,混乱を招かないためにも「固定の概念」とするか,より平易な伝わりやすい表現をするのもよいだろう。

(言いかえ案)
ダンスをするには地方は不利
世の中の常識を壊すために世界に挑戦

◎平和公園を訪れる「観光客」

広島市の平和公園では,きょうも多くの観光客などが訪れる中……

原爆の日の前日の8月5日,平和記念式典のリハーサルが行われたというニュース。「観光客」ということばを使うことに対し,広島放送局内で,遺族感情を考えると軽い印象で不適切ではないかという意見が出たという。これについて,委員をはじめ出席者からは,特に気にならないという意見が多かった。

しかし,広島放送局で原爆取材の経験がある出席者からは「8月6日が近づくと,広島の町の雰囲気は大きく変わる。早朝から平和公園に来て,静かに手を合わせ涙する遺族の方,平和を祈る地元の人たち。『観光客など』の一言で済ませず,そういった人たちについても描写することで,NHK広島放送局として8月5日のニュースで伝えるべきメッセージがより伝わるのではないか」という意見があった。

●「など」の多用を避ける

同じ文章について,委員からは,「など」が気になるという意見があった。「AやBなど」と2つを並べて「など」をつけるのは落ち着くが,「Aなど」と名詞1つに「など」をつけるのは違和感がある,という指摘だ。さらに,NHKはそもそも「など」が多すぎるのではないか,という指摘もあった。ニュースの現場から,正確性を期すために「など」をつけがちだという事情が説明されると,委員から「など」を減らすための次のような具体策も紹介された。

並列の助詞として「と」と「や」があるが,「AとB」というと,それ以外のものが入ってこない。一方「AやB」というと,それ以外のものがある前提となる。助詞に「や」を使えば「など」を使わずに済む。今回の場合,「観光客」以外の具体的な描写をしたうえで「など」をつけないという方法もあった。

(言いかえ案)
広島市の平和公園では,きょうも多くの観光客や遺族が訪れる中……

◎「献花の動き」「立ち位置」で連想するもの

式典のリハーサルでは,広島市の松井市長が献花の動き立ち位置を確認していたほか……

「献花」は,神前・霊前などに花を供えること。また,その花(『明鏡国語辞典3版』)。花そのものを連想する人もいるため「献花の動き」だと「花が動くのか」という印象にもなりかねないと,委員から指摘が出た。「献花をするときの動き」が丁寧だろう。

また「立ち位置」は,①立つ位置,②ある状況の中で,その人が占める位置(『明鏡国語辞典3版』)。市長の立ち位置というと,別の意味合いも出てきてしまう。「立ち位置」はテレビ業界でよく使いがちだが,物理的な立つ場所の確認ならば「立つ位置」「立つ場所」としたい。

◎リポートの前説は,丁寧に説明を

琴浦町で,残りわずかな命という設定で大切なものを見つめ直すワークショップが,この夏,開かれました。

鳥取局のリポート「死の体験旅行」。委員からは「せっかくおもしろい内容なのに,途中までイベントの設定がよくわからず,もったいなかった」という指摘が出た。そこで,VTRに先立ってスタジオでキャスターがイベントの概要を説明した前説部分のコメントを検討した。

「琴浦町で,残りわずかな命」というのは,意味がつながらず,やや唐突感があった。導入の部分なので,文章を2つに分けるなどして丁寧に伝えたい。

また委員から「ワークショップ」は意味がわからない人もいるので,説明があったほうがよいのではないか,という意見も出た。

(言いかえ案)
琴浦町で,ある講習会・ワークショップが開かれました。自分の命が残りわずかだという設定で,大切なものを見つめ直すという内容です。

◎「スカラーシップ」とは

本場イタリアのバレエ学校などから,スカラーシップを受けました。

委員から「スカラーシップ」の意味がわからない人もいるのではないか,という意見が出た。

奨学金をもらう,特別な学校に通う権利を得るなど,スカラーシップの内容もケースによって異なる。「スカラーシップ・奨学金を受けました」など,外来語は丁寧に意味を補足したい。なお,ほかの部分では「プリンシパル(最高位)」「ファイナル(本選)」など,テロップで補足説明がされ,配慮されていた。

◎若者ことばに気をつける

ジュリアちゃんが目標だっていう人は?
お,めっちゃいる。

もう努力はもちろんなんですけど,好きの気持ちがあるからこそ……

2歳から1つのことに情熱持って好きでい続けるって,またすごいですよね。

バレエで活躍する13歳の中学生を取り上げたリポート。スタジオでは,女性キャスター2人が,アドリブを交えて,自然なやりとりをしていた。

明るい雰囲気で楽しめたが,全体に「若者ことば」が目立った。「めっちゃ」は「とても」,「好きの気持ち」は「好きだという気持ち」にしたい。

また,スタジオトークの中で「すごい」ということばが繰り返されており,この「すごい」の多用についても,委員から指摘があった。現場のアナウンス担当者からは,今後,しばらく「すごい」の使用を控えて,ほかの表現を探るようにしたいと話があった。心がけ1つで表現の幅がぐっと広がり,具体的な描写につなげることもできる。

◎「○○していきたい」という表現

スイスのローザンヌ国際バレエコンクールなどにも挑戦していきたいということです。

「挑戦していきたい」など「○○していきたい」という表現も,若い世代を中心に増えている。日本語として間違っていないが,「挑戦したい」のほうがより直接的な表現になる。また「挑戦したい」は“今の気持ち”を示すのに対し,「挑戦していきたい」は“将来にわたって”こうしていきたい,というニュアンスになる。「○○していきたい」が口癖にならないように,こうした違いを意識して,使い分けたい。

藤井まどか(ふじい まどか)

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