え!? と聞き返したくなるような,放送現場からの問い合わせがあった。「“老婆心ながら”ということばは年下から年上に使うのでしょうか」。
「老婆心」というぐらいだから,年配者から若者,上司から部下などに言うのが当然と思っていた。まわりの人にも確認するが,みな苦笑い。
どうしてそんな疑問が起こるのか,質問者にたずねると,「国語辞典で調べたら,“へりくだった言い方”と書いてあった」ということだった。へりくだるのは謙譲語だから,目下から目上に使うと思ったようだ。
『三省堂国語辞典第8版』の「老婆心」の項には“必要以上の心づかい。老婆心切(しんせつ)。婆心(ばしん)。「—ながら申し上げます。〔へりくだった言い方。男性も使う〕」”とある。
他人に意見やアドバイスをしたいとき,「たいした意見ではないですよ,年寄りのおせっかいですが……」という言い訳のような前置きとして使う。この謙そんした感じが「へりくだった」にあたるわけだ。ただ,「老婆」という語から,本来,年上から年下に使うものである。
例えば,経験豊富な重役が年下の社長に向かって「社長,老婆心ながら申し上げます」という感じだろう。とはいえ,ちょっと時代劇のような言い方で,自分のまわりではあまり耳にしない。
ところが,SNSを調べてみると,想像以上に使われていることに驚いた。
保育士さんが新人保育士にアドバイスをするコメントで「老婆心ながら……」。これは正統派の使い方。
でも少し違うものもある。「老婆心ながら,寒暖差が激しい日々が続いてますので〇〇さんもお身体お気を付け下さいね!」「あれ街中で見るたび老婆心で『シャツ出てるよ』って言いたくなっちゃう……」「〇〇(プロ野球チームのマスコット:筆者注)が年々細身になってくのが,老婆心ながら心配」「お誕生日おめでとうございます! 一年の幸福を老婆心ながら願っています」
単に,心配,気にかけているという意味で使われている。年齢や男女に関係なく,“おばあちゃん”のようにあたたかく見守っているというイメージだろう。こんなやさしい響きなら,本当の老婆になる前に使ってみようか。