第1463回放送用語委員会(東京)2023年2月10日

「異字同訓」の漢字の使い分け・表記について

~食べ物の「かたい・やわらかい」はどう書く?~

公開:2023年5月1日

第1463回放送用語委員会(2023年2月10日)では,下記の議題を取り上げた。
 議題1:「異字同訓」の漢字の使い分けについて(意見交換)
 議題2:「いれかわる」の表記について(用語の決定)

意見交換および提案・決定について当日の議論の概要を記す。

議題1 「異字同訓」の漢字の使い分けについて(意見交換)

「柔らかい・軟らかい」など,同じ訓読みを持ち,意味も似ている漢字は「異字同訓」と呼ばれる。「異字同訓」は,もともとは1つのことば(やわらかい)に対して,複数の漢字表記(柔らかい・軟らかい)を対応させたものであり,放送現場でも使い分けに迷うことが多い。最近では,SNSなどを通じて個人が文字で情報を発信することも増え,「異字同訓」の漢字の使い分けはますます多様化している。

このため,『NHKことばのハンドブック第2版』を改訂するにあたっては,「異字同訓」に関する過去の用語決定を精査し,意味の説明や用例を大幅に増やして掲載する予定である。

ただ,異字同訓の漢字の使い分けには,個人差や年代差,専門分野の慣用もあり,漢字の意味からだけでは使い分けが整理しきれないものもある。その場合,一部の語について「どの漢字を使うか迷う場合は,ひらがなもおすすめ」と注釈を入れたり,複数の漢字を併記したりすることを検討している。

意見交換では,放送現場でどう書くか迷いやすい,食べ物の「かたい(固い・堅い・硬い)」「やわらかい(柔らかい・軟らかい)」,防犯カメラに「うつる(写る・映る)」を中心に,新たに実施した調査の結果などを参考にしながら議論を行った。

意見交換の席上では検討中の新しい使い分け案を示したが,新しくハンドブックに掲載するにあたっては,当日出た意見を反映させる予定である。なお,使い分けは漢字で書く場合にどう書くかを参考として示すものであり,ひらがなで書くことを妨げるものではない。

1 はじめに(議論の背景)

1.1 国の動き

同じ訓読みを持ち,意味が似ている「異字同訓」の漢字をどう使い分けるかという悩みは,当然のことながら,使用できる漢字が1種類ではなく複数ある場合に生まれる。つまり,日常的に使う漢字の数が増えると「異字同訓」にあたる漢字も増え,どちらの漢字で書くべきか迷うことになる。

国は2010年に「常用漢字表」を改定した際に,改定したことで新たに生まれた21項目の「異字同訓」の使い分けについても用例を示した。また,2014年に,文化審議会国語分科会で上記の追加分を含め現在の「常用漢字表」に掲載されている計133項目の「異字同訓」について改めて検討し,「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」として公表した。前書き部分では意味が似ていて同じ訓読みを持つ漢字を使い分けることの難しさについて言及している。

「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」(文化審議会国語分科会 2014年)
※ 「前書き」一部抜粋,下線は引用者

同訓の漢字の使い分けに関しては,明確に使い分けを示すことが難しいところがあることや,使い分けに関わる年代差,個人差に加え,各分野における表記習慣の違い等もあることから,ここに示す使い分け例は,一つの参考として提示するものである。したがって,ここに示した使い分けとは異なる使い分けを否定する趣旨で示すものではない。また,この使い分け例は,必要に応じて,仮名で表記することを妨げるものでもない。

1.2 日本新聞協会の動き

日本新聞協会に加盟する新聞・放送・通信各社の用語の担当者で構成する新聞用語懇談会は,文化審議会国語分科会の使い分け例などを参考にして「異字同訓」について改めて検討した。『新聞用語集(2022年版)』(日本新聞協会)では,「異字同訓」の使い分けに関する掲載を大幅に増やしたほか,紙面で使われている用例を多く盛り込んだ。

2 かたい

2.1 固い・堅い・硬い

今の「常用漢字表」には,物などが「かたい」という意味では「固い・堅い・硬い」の3種類の漢字が掲載されている。しかし,過去をさかのぼると,1948年に国が示した「当用漢字音訓表」では,3つの漢字のうち「堅」にだけ訓読みの「かたい」の読みが掲載されていた。「硬」には訓読みは示されず,音読みの「コウ」のみが掲載された。また,「固」は,訓読みとしては「かためる」が掲載された。

その後,1973年の「当用漢字音訓表」の改定で,「硬」に「かたい」の訓読みが追加されたほか,「固」にも「かたい・かたまる」の訓読みが追加された。

2.2 食べ物の「かたい」

NHK放送文化研究所には,番組制作者や記者から,放送の字幕における漢字の使い分けについて,日々,相談が寄せられる。この中でも問い合わせが多く,かつ,回答に悩むのが,「肉がかたい」「目玉焼きがかたい」など食べ物の「かたい」である。「固・堅・硬の3つの漢字,どれもしっくりこない」「硬は石や金属を連想させるので食べ物には使いづらい」といった声があり,相談した結果,ひらがなをすすめることも多い。また,NHKの番組の中には,肉やパンの「かたい」は,「堅」を使うとしている番組もあった。

2.3 国や新聞社の使い分け

2.3.1 国の使い分け

2014年の「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」では,「硬い」について「軟らかい」の対語として示したうえで,「外力に強い。こわばっている」など,「堅」「固」「硬」それぞれについて説明をつけた。なお,料理や食べ物についての用例は示していない。

「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」(文化審議会国語分科会 2014年)

【堅い】 中身が詰まっていて強い。確かである。
堅い材木。堅い守り。手堅い商売。合格は堅い。口が堅い。堅苦しい。

【固い】 結び付きが強い。揺るがない。
団結が固い。固い友情。固い決意。固く信じる。頭が固い。

【硬い】 (⇔軟らかい)。外力に強い。こわばっている。
硬い石。硬い殻を割る。硬い表現。表情が硬い。選手が緊張で硬くなっている。

2.3.2 新聞・通信社の使い分け

『新聞用語集(2022年版)』(日本新聞協会)では,「かたい飯」を「硬」に分類している。

『新聞用語集(2022年版)』(日本新聞協会)

かたい

=固い〔確固,固形〕
頭が固い,固い握手,固い絆,固い約束,固い友情,固織り,固く握り締める,(約束を)固く守る,固練り,固太り,財布のひもが固い,地盤が固い,団結が固い

=堅い〔堅実〕
織り目が堅い,堅い材木,堅い守り,堅苦しい,堅炭,堅物,義理堅い,口が堅い,合格は堅い,底堅い動き,手堅い商売

=硬い〔軟の対語〕
硬い石,硬い氷,硬い土,硬い皮革,硬い皮膚,硬い文章,硬い飯,硬さがほぐれる,選手が硬くなる,態度が硬い,布地が硬い,話が硬い,表情が硬い,骨が硬い

また新聞・通信各社の用語集では,共同通信が,食べ物について「使い分けに迷う場合は平仮名書き」とする説明をつけている。

(料理や食材(となりうるもの)を抜粋)

•読売新聞
『読売新聞 用字用語の手引 第6版』(2020年)
硬 … 硬い肉
•朝日新聞
『朝日新聞の用語の手引 改訂新版』(2019年)
固 … 固焼き
堅 … 茎・葉・実が堅い
硬 … ご飯が硬い
•毎日新聞
『毎日新聞用語集 2020年版』
固 … 固焼き注)
硬 … 硬い飯
注)「固焼き」は「かたやき」という項目で掲載されている。
•共同通信
『記者ハンドブック 新聞用字用語集 第14版』(2022年)
堅 … 堅い木の実
(注)食べ物は一般に「硬い」だが,「固ゆで卵,堅焼き煎餅」など慣用で異なる表記もある。使い分けに迷う場合は平仮名書き。
•時事通信
『最新 用字用語ブック 第7版』(2016年)
堅 … 堅い果実,堅パン,堅餅,堅焼き,茎・葉・実が堅い
硬 … 硬い肉,硬い飯

2.4 NHKの使い分け

2.4.1 過去の用語決定

放送用語委員会では,「かたい」の使い分けについて,1993年に以下の用語決定を行っている。

第1121回放送用語委員会(1993年2月)

固い
(意味)固体の物理的なかたさ。全体が強くて形が変わらない状態。
(「ゆるい」「柔らかい」の対語)
(用例)頭が固い,固い握手,固いきずな,固い信念,固い約束,固く禁ずる,固く信じる,団結が固い,地盤が固い,つぼみが固い

堅い
(意味)中まで詰まっていて形が変わらない状態。
堅実などの精神的な意味を表す場合。
(「もろい」の対語)
(用例)堅い材木,堅い商売,堅い守り,堅気,堅苦しい,義理堅い,口が堅い,合格は堅い,志が堅い,手堅い

硬い
(意味)力を加えても変わらない状態。物の性質や感じ。(「軟らかい」の対語)
(用例)硬い氷,硬い土,硬い文章,体が硬い(「固い」もよい),緊張して硬くなる,手触りが硬い,話が硬い,表情が硬い

(注)「固・堅・硬」のいずれにするか迷ったときは,「固」を使う。

2.4.2 『NHK漢字表記辞典』の表記

現行の『NHK漢字表記辞典』では,「かたい」について,食べ物に関連する用例は載せていない。

『NHK漢字表記辞典』(2011年)

固い (強固・頑固)地盤が~。~信念。頭が~。
堅い (「脆」の対。堅実)~材木。義理~。口が~。
硬い (「軟」の対)~土。表情が~。~文章。

2.5 「かたい」についての調査(2022年11月)

2.5.1 NHKの調査

食べ物の「かたい」について,2022年11月に調査を行った。質問は,①「このステーキ,肉がかたいな」,②「このパン,買ってから何日もたっているからかたくて食べにくい」,③「私は,少しかたいパンが好きです」の3問である。パンの「かたい」については,フランスパンなどについては,かたいという表現が,プラスの意味で使われることも多いため,マイナスとプラス,それぞれの文脈で質問を設定した。

調査時期 2022 年11月4日~ 14日
調査方法 調査員による個別面接聴取法
抽出方法 層化副次(三段)無作為抽出法
調査対象 全国満20 歳以上の男女4,000人
回収率 30.5%(1,221人が回答)

2.5.2 調査結果

[質問①]

次の下線を引いたことばは,どのように書くのがよいと思いますか。お考えに最もよくあてはまるものを,1つだけお答えください。読み方はいずれも「かたい」です。

a. このステーキ,肉が固い
b. このステーキ,肉が堅い
c. このステーキ,肉が硬い
d. このステーキ,肉がかたい

[回答]

1 aのように「固い」と書くのがよい…………………… 24%
2 bのように「堅い」と書くのがよい………………………7%
3 cのように「硬い」と書くのがよい…………………… 50%
4 dのようにひらがなで「かたい」と書くのがよい…… 18%
5 すべておかしい………………………………………………0%
6 (わからない)………………………………………………1%

[質問②]

では,次の「かたい」はどのように書くのがよいと思いますか。

a. このパン,買ってから何日もたっているから固くて食べにくい
b. このパン,買ってから何日もたっているから堅くて食べにくい
c. このパン,買ってから何日もたっているから硬くて食べにくい
d. このパン,買ってから何日もたっているからかたくて食べにくい

[回答]

1 aのように「固く」と書くのがよい………………… 30%
2 bのように「堅く」と書くのがよい………………… 11%
3 cのように「硬く」と書くのがよい………………… 36%
4 dのようにひらがなで「かたく」と書くのがよい… 20%
5 すべておかしい……………………………………………0%
6 (わからない)……………………………………………2%

[質問③]

では,こちらのような場合はどのように書くのがよいと思いますか。

a. 私は,少し固いパンが好きです
b. 私は,少し堅いパンが好きです
c. 私は,少し硬いパンが好きです
d. 私は,少しかたいパンが好きです

[回答]

1 aのように「固い」と書くのがよい………………… 27%
2 bのように「堅い」と書くのがよい………………… 17%
3 cのように「硬い」と書くのがよい………………… 32%
4 dのようにひらがなで「かたい」と書くのがよい… 22%
5 すべておかしい……………………………………………1%
6 (わからない)……………………………………………2%

調査の結果,質問①「肉がかたい」では,「硬」を支持した人が50%と半数を占め,次いで「固」が24%,ひらがなが18%で,「堅」は7%にとどまった(図1)。次に,②の「パンがかたくて食べにくい」の質問では,「硬」を支持した人が36%と最も多かったものの,①の肉の質問よりは少なかった。また,「固」は30%,ひらがなは20%で,「堅」は11%だった(図2)。

一方,同じパンでも,③の「かたいパンが好き」では,「硬」が32%と最も多かったものの,「固」が27%,「ひらがな」が22%,「堅」が17%と支持が分散した(図3)。

また,全体として,質問が異なっても同じ漢字を選ぶ人が多いという傾向がみられた。

2.6 席上で示した新しい使い分け案

調査の結果や国などの使い分けを踏まえ,意見交換では以下のような新しい使い分けの案を示した。食べ物では下線で示したように,「固い」に「固ゆで卵」,「硬い」に「硬いごはん」の用例を入れたうえで,「迷う場合は,ひらがなもおすすめ」という説明をつけた。

(新しいハンドブックにおける使い分け案)

かたい

=固い 「緩い」の反対語。
結び付きが強い。揺るがない。
例)頭が固い,固い握手,固い信念,固い絆,固い友情,固く信じる,固太り,固ゆで卵,財布のひもが固い,地盤が固い,団結が固い

=堅い 「もろい」の反対語。
中身が詰まっていて強い。確かである。
例)堅い材木,堅い守り,堅苦しい,義理堅い,口が堅い,合格は堅い,手堅い商売

=硬い 「軟らかい」の反対語。
外力に強い。こわばっている。
例)硬い石,硬い氷,硬いごはん,硬い土,硬い文章,硬さがほぐれる,緊張で硬くなる,態度が硬い,布地が硬い,表情が硬い

食べ物など,どの漢字を使うか迷う場合は,ひらがなもおすすめ。

2.7 当日の意見

放送用語委員(外部識者)からは以下のような意見があった。

•迷う場合はひらがなをすすめるというのは非常によい。自分自身もそうしている。動詞についてはひらがなにすると抵抗があるという人が多いのではないかと思うが,形容詞の場合はひらがなにしてもあまり抵抗がない人が多いのではないかと思う。

•「異字同訓」は,「大和ことば」がもともと1つしかないところに漢字表記で書き分けようとすることなので,どだい無理が生じる。一方で,例えば,結婚相手をさがす旅をするような場合は「妻を探す」,妻がいなくなったような場合は「妻を捜す」と漢字で書くと,そういう状況であることを表せる。しかし,そこまでの区別がない場合は書き分けに悩むので,「ひらがなもおすすめ」と明記することはよいのではないか。また,「堅い」の反対語に「もろい」とあるが,例えば,「堅苦しい」の反対語が「もろい」というのは苦しい。「主に」をつけるなどしたほうがよいだろう。

•「かたい」ということばは,「やわらかい」に比べるとひらがなで書きたくないことばであるので,何か漢字を選びたいところがある。自分自身は,「硬い」は石のかたさ,「堅い」は土のかたさ,「固い」は囲いのかたさと使い分け,迷ったときは固を使っていた。また,反対語が明記されたのはわかりやすい。

3 やわらかい

3.1 柔らかい・軟らかい

1948年の「当用漢字音訓表」では,「柔」には「ジュウ・ニュウ」の音読みとともに,「やわらかい」の訓読みが示されたが,「軟」には「ナン」の音読みだけが示された。その後,1973年の音訓表の改定で,「軟」にも「やわらかい」の訓読みが追加された。

3.2 食べ物の「やわらかい」

「やわらかい」について,放送現場からは,おいしい料理や食材など,肯定的な意味で「やわらかい」という場合,「軟らかい」は使いづらいという相談が多い。軟体動物のように弾力のない状態をイメージしてしまい,おいしくないように感じるという声もあった。肉やパンなどの場合は,「柔らかい」を使うとする番組もある。

3.3 国や新聞社の使い分け

3.3.1 国の使い分け

「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」では,「軟らかい」の対語として「硬い」を示したうえで,「やわらかい肉」「やわらかく煮た大根」を「軟」に分類している。

「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」(文化審議会国語分科会 2014年)

【柔らかい・柔らかだ】
ふんわりしている。しなやかである。穏やかである。

柔らかい毛布。身のこなしが柔らかだ。頭が柔らかい。柔らかな物腰の人物。物柔らかな態度。

【軟らかい・軟らかだ】(⇔硬い)。
手応えや歯応えがない。緊張や硬さがない。

軟らかい肉。軟らかな土。地盤が軟らかい。軟らかく煮た大根。軟らかい表現。

3.3.2 新聞・通信社の使い分け

『新聞用語集(2022年版)』(日本新聞協会)では,「やわらかい果肉」は「柔」,「やわらかいご飯」「大根をやわらかく煮る」は「軟」に分類している。

『新聞用語集(2022年版)』(日本新聞協会)

やわらか・やわらかい

=柔らか・柔らかい〔剛の対語〕
身のこなしが柔らかい,物柔らかな態度,柔らかい果肉,柔らかい布地,柔らかい(植物の)芽,柔らかな心,柔らかな手触り

=軟らか・軟らかい〔硬の対語〕
大根を軟らかく煮る,土質が軟らかい,文章が軟らかい,軟らかいご飯,軟らかい炭,軟らかい話,軟らかい木材

新聞・通信各社の用語集では,料理や,食材となりうるものに関連する「やわらかい」の使い分けは下記のようになっている。なお,共同通信は,食べ物について,調理前の素材は「柔」,調理の結果は「軟」としたうえで,「どちらかはっきりしない場合も多いので,平仮名書きでよい」とする説明をつけている。

(料理や食材(となりうるもの)を抜粋)

•読売新聞
『読売新聞 用字用語の手引 第6版』(2020年)
柔…柔らかく焼き上がったパン
軟…軟らかく煮た大根
•朝日新聞
『朝日新聞の用語の手引 改訂新版』(2019年)
柔…果肉・茎・葉・実・芽が柔らかい
軟…ご飯が軟らかい,大根を軟らかく煮る
•毎日新聞
『毎日新聞用語集 2020年版』
柔…柔らかい茎・果物・葉・実・芽
軟…大根を軟らかく煮る
•共同通信 
『記者ハンドブック 新聞用字用語集 第14版』(2022年)
柔…柔らかい茎・葉・実・芽
軟…軟らかいご飯
(注)食べ物は調理前の素材(肉や果実など)自体の性質は「柔」,調理の結果は「軟」だが,どちらかはっきりしない場合も多いので,平仮名書きでよい。
•時事通信
『最新 用字用語ブック 第7版』(2016年)
柔…柔らかい茎・果物・葉・実・芽
軟…ご飯が軟らかい,大根を軟らかく煮る,軟らかい肉

3.4 NHKの使い分け

3.4.1 過去の用語決定

放送用語委員会では,「やわらかい」の使い分けについて,1993年に以下の用語決定を行っている。「やわらかい食べ物」「やわらかく煮る」「やわらかな肉」は「軟」に分類している。

第1121回放送用語委員会(1993年2月)

柔らか・柔らかい
(意味)物や人がしなやか,人や自然などが穏やかであるさま。(「固い」の対語)
(用例)頭が柔らかい,身のこなしが柔らかい,もの柔らかな態度,柔らかい布,柔らかい日差し,柔らかな心,柔らかな手触り,柔らかな毛布

軟らか・軟らかい
(意味)物質がぐにゃぐにゃしていて,手ごたえがないさま。態度や方針がかたくるしくない。(「硬い」の対語)
(用例)体が軟らかい(「柔らかい」もよい),文章が軟らかい,軟らかい色,軟らかい炭,軟らかい食べ物,軟らかい話,軟らかく煮る,軟らかな肉

(注)「柔・軟」のいずれにするか迷ったときは,「柔」を使う。

3.4.2 『NHK漢字表記辞典』の表記

現行の『NHK漢字表記辞典』では,下線に示したように,「やわらかく煮た大根」について,「軟」に分類している。

『NHK漢字表記辞典』(2011年)

柔らか  (「剛」の対)~な毛布。~な物腰。
柔らかい ~布。~筋肉。
軟らか  (「硬」の対)~な土。~く煮た大根。
軟らかい ~材質。文章が~。

3.5 「やわらかい」についての調査(2022年11月)

3.5.1 NHKの調査

食べ物の「やわらかい」についても,2022年11月に調査を行った。①「少し高くても,やわらかい肉を買いたい」は,調理前の素材としての肉を想定し,②「よく煮込んだカレーは,肉がやわらかい」は,調理されたあとの肉を想定して質問を設定した。

3.5.2 調査結果

[質問①]

次に「やわらかい」についてお聞きします。こちらのような「やわらかい」は,どのように書くのがよいと思いますか。お考えに最もよくあてはまるものを1つだけお答えください。

a. 少し高くても,柔らかい肉を買いたい
b. 少し高くても,軟らかい肉を買いたい
c. 少し高くても,やわらかい肉を買いたい

[回答]

1 aのように「柔らかい」と書くのがよい………………… 55%
2 bのように「軟らかい」と書くのがよい………………… 19%
3 cのようにひらがなで「やわらかい」と書くのがよい… 25%
4 すべておかしい…………………………………………………1%
5 (わからない)…………………………………………………1%

[質問②]

では,こちらの場合はどうでしょうか。

a. よく煮込んだカレーは,肉が柔らかい
b. よく煮込んだカレーは,肉が軟らかい
c. よく煮込んだカレーは,肉がやわらかい

[回答]

1 aのように「柔らかい」と書くのがよい………………… 51%
2 bのように「軟らかい」と書くのがよい………………… 19%
3 cのようにひらがなで「やわらかい」と書くのがよい… 27%
4 すべておかしい…………………………………………………1%
5 (わからない)…………………………………………………1%

「柔」を支持した人は,①の調理前の肉についての質問で55%(図4),②の調理後の肉についての質問でも51%(図5)で最も多かった。また,ひらがなを支持する人も①の質問で25%,②の質問で27%と3割近くいた。一方,「軟」を支持する人はいずれの質問でも19%だった。
また,①の質問で「柔」を選んだ人の76%が②の質問でも「柔」を選んだ。

3.6 席上で示した新しい使い分け案

肉の「やわらかい」は,調理前でも調理後でも「柔」を支持する人が多かったが,漢字の意味や,国や新聞・通信社の使い分けの現状などを総合的に検討した結果,新しい使い分け案の用例には入れなかった。一方,下線で示したように「柔」の用例として「柔らかい果肉・(植物の)芽・葉・実」,「軟」の用例として「軟らかくしたごはん」を入れ,「食べ物など,どの漢字を使うか迷う場合は,ひらがなもおすすめ」という説明をつけた。

(新しいハンドブックにおける使い分け案)

やわらか・やわらかい

=柔らか・柔らかい
ふんわりしている。しなやかである。穏やかである。
例)身のこなしが柔らかだ,柔らかい果肉・(植物の)芽・葉・実,柔らかな心・表情,柔らかな手触り,柔らかな物腰,柔らかい毛布

=軟らか・軟らかい 「硬い」の反対語。
手応えや歯応えがない。緊張や硬さがない。
例)文章が軟らかい,軟らかい材質,軟らかい表現,軟らかくしたごはん,軟らかな土

食べ物など,どの漢字を使うか迷う場合は,ひらがなもおすすめ。

3.7 当日の意見

放送用語委員(外部識者)からは以下のような意見があった。

•ひらがなには,子ども向けとか,やさしいという意味もあるが,どう表現したらいいか困るとひらがなにするというような人も一部いて,それが集計結果にも出ている。わからなかったらひらがな,これも1つのあり方であると納得している。

•もともと日本語として「やわらかい」は1つしかなかった。はっきりしているものはもちろん漢字で書けばよいが,どちらかわからないものを漢字で書き分ける必要はない。

•「軟」には,軟体動物など,個人的にあまりいいイメージがない。例えば,りんごはシャリシャリしてかたいのがいいという人にとって,りんごがやわらかくなってしまったときはどちらの漢字を使えばいいのだろうか。規則を必ず見つけようとするのは難しい。

•漢字の意味をきちんと反映しているかぎりは,漢字の区別をするというのは非常によいと思う。「やわらかい」というのも,果物などもともと「やわらかい」のが普通だというときには「柔」を使い,かたくなることもあればやわらかくなることもあるという場合には「軟」を使うということなのだと思う。

•「柔らかい」に「ふんわり」という説明が入ったのはよい。自分自身は,「柔」は「ふんわり」,「軟」は「ぐんにゃり」というふうに使い分けてきた。文章が「やわらかい」について,自分はいい意味に捉えていたので「柔」を使うことが多かった。

•「軟」は,車偏に欠けると書き,文字感が食べ物からとても遠い。ひらがな表記はやわらかさを表現する傾向があるので,「ひらがなもおすすめ」という表現はよいと思う。

4 防犯カメラに「うつる」

4.1 うつす・うつる(写す・写る,映す・映る)

1948年の「当用漢字音訓表」では,「写」には「うつす」,「映」には「うつる」の訓読みを掲載している(音訓表のまえがきには,「自動詞にも他動詞にも使われるものについては,おおむねその一方の形のみを掲げてあるが,両様に使ってさしつかえない」と説明あり)。

1973年の音訓表の改定では,「写」の訓読みとして「うつす・うつる」,「映」の訓読みとして「うつる・うつす・はえる」が掲載された(「 」の中の順は掲載順)。

4.2 防犯カメラに「うつる」

防犯カメラに「うつる」の場合,画像として残るという意味では「写る」だが,モニターなどで映像を確認しているような場面で使われることも多い。放送現場からは,防犯カメラのほか,胃カメラなど撮影と映像の再生を同時に行っているような場合,「写」と「映」のどちらを使うべきか迷うという相談も多い。

4.3 国や新聞社の使い分け

4.3.1 国の使い分け

「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」では,「写」について「画像として残す」,「映」について「画像を再生する」という意味を載せたうえで,防犯ビデオや胃カメラについては,「写」と「映」のどちらでも書くことができるという説明をつけている。

「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」(文化審議会国語分科会 2014年)

【写す・写る】
そのとおりに書く。画像として残す。透ける。

書類を写す。写真を写す。ビデオに写る。裏のページが写って読みにくい。
【映す・映る】
画像を再生する。投影する。反映する。印象を与える。

ビデオを映す。スクリーンに映す。壁に影が映る。時代を映す流行語。鏡に姿が映る。彼の態度は生意気に映った。

*「 ビデオに写る」は,被写体として撮影され,画像として残ることであるが,その画像を再生して映写する場合は「ビデオを映す」と「映」を当てる。「ビデオに映る姿」のように再生中の画像を指す場合は「映」を当てることもある。また,防犯ビデオや胃カメラなど,撮影と同時に画像を再生する場合も,再生する方に視点を置いて「ビデオに映る」と書くこともできる。

4.3.2 新聞・通信社の使い分け

日本新聞協会の『新聞用語集(2022年版)』では,防犯カメラについては触れていないが,ビデオに「うつる」について説明をつけている。

『新聞用語集(2022年版)』(日本新聞協会)

うつる・うつす

=写る・写す〔文書や絵,写真などを〕
生き写し,写し,写し取る,写真写りが良い,書類を引き写す,答案を写す

=映る・映す〔映写,反映〕
映画・スライドなどを映す,鏡に顔を映す,壁に影が映る,テレビに映る,まざまざと映し出す
〔注〕画像に残るのは「ビデオに写る」だが,再生中の画像を指す場合などは「ビデオに映る」とも。

新聞・通信各社の用語集では,「防犯カメラにうつる」について,「写」か「映」かの判断は社によって分かれている。

•読売新聞
『読売新聞 用字用語の手引 第6版』(2020年)
防犯カメラ・ビデオに映った男
•朝日新聞
『朝日新聞の用語の手引 改訂新版』(2019年)
防犯カメラ・ビデオに映った人物
•毎日新聞
『毎日新聞用語集 2020年版』
防犯カメラに映る
•共同通信 
『記者ハンドブック 新聞用字用語集 第14版』(2022年)
(防犯)カメラ・ビデオに写る
•時事通信
『最新 用字用語ブック 第7版』(2016年)
防犯カメラ・ビデオに映った人物

4.4 NHKの使い分け

放送用語委員会では,「異字同訓」の「うつる」について個別の用語決定はない。また,『NHK漢字表記辞典』には,防犯カメラについての用例はない。

『NHK漢字表記辞典』(2011年)

写る 写真に~。
写す 写真を~。ノートを~。
映る 鏡に~。着物がよく~。
映す 紅葉を~湖。ビデオをモニターに~。世相を~流行語。スライドを~。

4.5 防犯カメラに「うつる」について
NHKの調査結果(2022年11月)

[質問]

次の下線を引いたことばは,どのように書くのがよいと思いますか。お考えに最もよくあてはまるものを,1つだけお答えください

a. 防犯カメラに怪しい人影が写っていた
b. 防犯カメラに怪しい人影が映っていた
c. 防犯カメラに怪しい人影がうつっていた

[回答]

1 aのように「写っていた」と書くのがよい………………… 34%
2 bのように「映っていた」と書くのがよい………………… 60%
3 cのようにひらがなで「うつっていた」と書くのがよい……5%
4 すべておかしい……………………………………………………0%
5 (わからない)……………………………………………………1%

調査では,「映」を支持した人が60%,「写」を支持した人は34%で,ひらがなは5%だった(図6)。ひらがなを支持した人は,「かたい」「やわらかい」の調査結果と比べても,明らかに少なかった。「かたい」や「やわらかい」ではひらがなを支持した人でも,「うつる」については,漢字で書いてほしいと考える人が多いことがわかる。

また,年代別にみると,30・40代で「映」の支持が高く70%を超えた一方で,70歳以上の人では「写」を支持した人が48%と,「映」の41%を上回り,年代による差が大きかった。70歳以上の人の中でも,「写」を支持した人は,70代では47%,80歳以上の人では50%にのぼり,年齢が高い人ほど「写」を支持する人が多かった。

4.6 席上で示した新しい使い分け案

調査結果や,国や新聞各社の使い分けを踏まえ,新しい使い分け案では,下線で示したように,「写」に「画像として残す」,「映」に「画像を再生する」という説明を入れたうえで,防犯カメラに「うつる」は,「映」に「写」を併記する形とした。

(新しいハンドブックにおける使い分け案)

うつる・うつす

=写る・写す
そのとおりに書く。画像として残す。透ける。
例)生き写し,写し取る,裏のページが写って読みにくい,大写しにする,写真写りがよい,答案を写す,ノートに写す,丸写し

=映す・映る
画像を再生する。投影する。反映する。
例)映像をモニターに映す,鏡に姿を映す,壁に影が映る,紅葉を映す湖,スライドを映す,世相を映す,テレビに映る,防犯カメラに映(写)る

4.7 当日の意見

放送用語委員(外部識者)からは以下のような意見があった。
•現代においては,「写」はどちらかというと静止画に使い,「映」はどちらかというと動画に使うという使い分けも広まっているようだ。しかし,動画も一時停止をすると静止画になるなど,つかみどころがないところがある。
•防犯カメラでも,静止画でその人の顔が一番うつっている静止画を見せるときと,何かが動いていくのを見せる場合の両方があると思うが,特に静止画で防犯カメラを見せるような場面を思い浮かべると迷う人が多いのではないか。年代が高くなると動画にそれほどなじみがなかったから「写る」が多いのではないかと思った。
•ビデオカメラに「うつっている」は,(「写・映」)どちらもある。見たものをデジタル化して映像のほうに移動させる,“見たものを中心”とする場合は「写」がよいだろうし,実際にビデオカメラを見ているような場合には,視角に映るので「映」のほうがよい。どちらの側面もあるので迷うのだと思う。
•写真世代か動画世代かということで差が出てくるのではないか。映像の場合には,基本的に「映」を使っていくのが現実的ではないだろうか。

また,放送現場の声としてNHKの部内の委員からは以下のような意見があった。
•「写」は「画像として残す」,「映」は「画像を再生する」というのは,わかりやすい区分けだと思う。ただ,防犯カメラの場合,その画像は,事件の証拠や裁判の記録となる。防犯カメラで「うつる」を使う場合は,「画像として残す」,言いかえれば「証拠として記録する」という意味合いのほうが強く,その文脈では「写」のほうがよいのではないだろうか。一方で,防犯カメラの「画像を再生する」ということに重点を置く場合は「映」がよいだろう。どういう文脈で捉えるかによって,「写」なのか「映」なのかは変わる。このため,「写」と「映」のどちらかが主,どちらかが従という形で示すのではなく,「使い分けは文脈による」というような説明をつけて,並列で示すのがいいのではないか。

5 そのほかの「異字同訓」の使い分け

意見交換では,「かたい」「やわらか・やわらかい」「うつす・うつる」も含め,計136項目の「異字同訓」の使い分けを,検討中の案として示した。このうち,出席した放送用語委員から意見があった使い分けを抜粋して記す。

(新しいハンドブックにおける使い分け案)

あたたまる・あたためる

=温まる・温める
冷たさをやわらげる。抽象的な表現にも使う。
例)構想を温める,心が温まる話,スープを温める,手足を温める,鳥が卵を温める,ベンチを温める

=暖まる・暖める
温度が上がる。主に気象・気温に使う。
例)空気が暖まる,部屋を暖める

(当日の意見)

•体の一部が「あたたかい」という場合には「温」を使い,全身で「あたたかさ」を感じる場合には「暖」を使うという使い分けがあるのではないか。

おす

=押す
「引く」の反対語。力を加える。
例)押し込める,押し殺す,押し倒す,押しつけがましい,押し通す,判を押す,ベルを押す,病気を押して参加する

=推す
推進する。推量する。推薦する。
例)推し進める,推して知るべし,推し量る,推しの歌手,議長に推す

(当日の意見)

•「推しの歌手」が用例に入っているのはよい。「推す」の意味としては,「応援する」もあったほうがよいだろう。

はやい・はやまる・はやめる

=早い・早まる・早める
時期や時刻が前である。時間が短い。
例)足が早い(鮮度・売れ行き),足早に立ち去る,気が早い,時期が早すぎる,時刻を早める,出発時間が早まる,順番が早まる,手っ取り早い,早い者勝ち,早変わり,早く起きる,早口,早まった行動,早めに来る,予定を早める

=速い・速まる・速める
スピードがある。速度が上がる。
例)足が速い(俊足),頭の回転が速い,川の流れが速い,決断が速い,呼吸が速い,スピードが速まる,球が速い,テンポが速い,速い動作,脈拍が速まる

(当日の意見)

•「早口」は,「早」で書くが,時期や時刻が前とか,時間が短いという意味の「早」より,スピードが速いという「速」のニュアンスが強い。江戸時代には「速」で「はやい」と読ませることはまずなかったようで,「早口」は,江戸時代の慣用がそのまま定着したものなのだろう。使い分けではなく,例外的なものとして示したほうがよいのではないだろうか。

はる

=張る
一般用法。取り付ける。広がる。
例)虚勢を張る,氷が張る,ウェブサイトにリンクを張る,策略を張り巡らす,タイル張りの壁,テントを張る,木の根が張る,ネットを張る,張りのある声,ロープを張る

=貼る
限定的に使う。のりなどで表面に付ける。
例)切手・シール・付箋を貼る,接着剤で貼る,データを貼り付ける,レッテルを貼る

(当日の意見)

•のりのついた大きな壁紙などを「はる」場合は,「張る」も「貼る」も使えるのではないか。

ふける

=老ける 年を取る。
例)老け込む,老けて見える,老け役

=更ける 深くなる。
例)秋が更ける,夜が更ける,夜更かし

=ふける〔×耽〕 没頭する
例)読書にふける

=ふける〔×蒸〕 蒸されて熱が通る。
例)芋がふける

×は放送では使わない漢字

(当日の意見)

•「芋がふける」という例があるが,これは必要だろ
うか。「ふかし芋」とは言うが,「蒸し上がった」と
いう意味で「ふける」という動詞を使い,「芋がふける」と言うことがあるのだろうか,疑問に思う。

まち

=町
地域。行政区画。
例)下町,町ぐるみ,町外れ,町役場,城下町

=街
商店などが並んでにぎやかな通りや地域。
例)学生の街,街角,街の声,街の明かりが恋しい,街を行く人

参考)「町づくり・街づくり」「町なか・街なか」などは内容によって使い分ける。

(当日の意見)

•まちづくりの専門家である大学の同僚たちに聞いたところ,皆,全部ひらがなで「まちづくり」と書くと言っていた。「町」「街」と書き分けると「まち」の意味が限定されてしまう。彼らがやっているのは,全部ひっくるめた意味での「まち」なので,ひらがなにしているそうだ。

議題2 「いれかわる」の表記について(用語の決定)

1 「入れ替わる」〈決定〉

「いれかわる」を漢字で書く場合,これまでは「入れ代わる」として「替」(入れ替わる)は使わない漢字としてきたが,これを見直し,「入れ替わる」を使えるようにする。
なお,変更後,「代」(入れ代わる)を使わない漢字とはしない。また,「いれかわり」は,現行どおり「入れ代わり」のままとする。

『NHK漢字表記辞典』の表記は下記のように変更する。

変更前 変更後
入れ代わる〔替〕 入れ替わる

*〔 〕は使わない漢字を示す。

『NHK漢字表記辞典』では,これまで「いれかえる」は「入れ替える」と書き,「いれかわる」は「入れ代わる」と書くとしてきた。しかし,国の審議会の使い分け例や新聞各社の用語集では「入れ替わる」としているほか,「入れ替わる」の表記のみを載せている辞書も一定数ある。また,今回実施した調査の結果でも「入れ替わる」の表記を支持する人が多く,「入れ替わる」のほうが一般的な表記であると判断した。
なお,「入れ代わり立ち代わり」という表現があるように,人と人が交代するような場面では「入れ代わり」「入れ代わる」を使うこともあると考え,「代」を使わない漢字とはしない。

2 かわる・かえる

1948年の「当用漢字音訓表」では「替」には「かえる」,「代」には「かわる・よ」の訓読みを掲載している。
1973年の音訓表の改定では,「替」の訓読みとして「かえる・かわる」,「代」の訓読みとして「かわる・かえる・よ・しろ」が掲載された。

3 国や新聞社の表記

「「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)」(文化審議会国語分科会 2014)では,「いれかわる」は「入れ替わる」としている。また,日本新聞協会の『新聞用語集(2022年版)』でも「いれかわる」は「入れ替わる」としている。

4 各辞書の記載の状況(8冊)

2014年以降に発刊された辞書のうち,おもだった8冊について「いれかわる」の表記を調べた。

「替」のみ(4冊)

•『広辞苑』(第7版・2018)
•『新選国語辞典』(第10版・2022)
•『例解新国語辞典』(第10版・2021)
•『三省堂国語辞典』(第8版・2022)

「替・代」(3冊)

•『大辞林』(第4版・2019)
•『岩波国語辞典』(第8版・2019)
•『明鏡国語辞典』(第3版・2021)

「代・替・換」(1冊)

•『新明解国語辞典』(第8版・2020)
入(れ)代(わ)る
「入れ替わる・入れ換わる」とも書く。

5 NHKの調査結果(2022年11月)

[質問]

下線を引いたことばは,どのように書くのがよいと思いますか。読み方はいずれも「いれかわった」です。

a. 人事異動で2人の立場が入れ代わった
b. 人事異動で2人の立場が入れ換わった
c. 人事異動で2人の立場が入れ替わった
d. 人事異動で2人の立場が入れかわった

[回答]

1 aのように「入れ代わった」と書くのがよい… 32%
2 bのように「入れ換わった」と書くのがよい……8%
3 cのように「入れ替わった」と書くのがよい… 54%
4 dのように「入れかわった」と書くのがよい……5%
5 すべておかしい………………………………………0%
6 (わからない)………………………………………1%

調査の結果,「入れ替わった」を選んだ人が54%と最も多かった(図7)。70歳以上の人は,ほかの年代と比べると,「入れ代わった」を選ぶ割合が高いという傾向がみられた。

中島沙織(なかじま さおり)

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