ワクチンを,「接種する」? 「接種してもらう」?

公開:2023年1月1日

Q
「病院に行ってワクチンを『接種する』『接種してもらう』」、どちらが正しいのでしょうか。
A
どちらも問題ありません。「(予防)接種」はお医者さんがおこなう行為であるため、それを受ける側としては「(医師から)ワクチンの接種を受ける」とか「(医師に)ワクチンを接種してもらう」などと言い表さなければならないという考えもあります。ですが一般的には、「ワクチンを接種する」でも誤解が生じることはまずありませんし、実際に広く使われています。むしろ、「ワクチンを接種してもらう」という言い方のほうがかえって落ち着かないと感じる人も少なくないようです。

「あ、髪の毛切った?」という言い方があります。これはおかしいでしょうか? 前髪くらいなら自分で切ることもあるでしょうが、ふつうは、理髪店や美容院に行ったり、あるいは家族などに「髪の毛を切ってもらう」ものだと思います。ですが、その事実をことばで言い表す場合、「髪の毛切ってもらった?」とか「髪の毛切らせた?」などと言うと、かえっておかしく感じられることのほうが多いのではないでしょうか。

「家を建てた」はどうでしょう。家を自分の手で一から建てる人はまずいなくて(ときどきいますが)、ふつうは大工さんや建築業者に依頼して「建ててもらう」ものです。しかし、自分で費用を負担した場合には「家を建てた」と言いますよね。

「ワクチンを接種する」も、これらと同じです。実際の行為としては、右手に注射器を持って自分の左腕に注射するようなものではないのですが、それをことばで言い表す場合には「接種する」で差し支えありません。

「ワクチンを[Ⓐ接種してきた/Ⓑ接種してもらってきた]」について調査をおこなってみました。全体としていちばん多い回答は「Ⓑはおかしい(Ⓐはおかしくない)」なのですが、その結果を年齢別に見ると、次のようなことが言えます。

▼20代から60代までの年代では、「両方ともおかしくない」と「Ⓑはおかしい(Ⓐはおかしくない)」の回答が、だいたい同じぐらいの割合である

▼一方、70代と80歳以上では、「両方ともおかしくない」が比較的少なく、「Ⓐはおかしい(Ⓑはおかしくない)」が比較的多くなっている

つまり、70代以上の層では、(医師の側でもないのに)「ワクチンを『接種してきた』」と言うのはおかしいと考える人の割合が、全体平均と比べるとやや多くなっているということになります。

また、自分の歯の治療を自分でする人はごくまれでしょう。この「治療した/治療してもらった」というペアについても同時に調査をおこなってみたのですが、「接種」と同様に、高齢層では(医師の側でもないのに)「治療してきた」と言うのはおかしいと考える人の割合が、全体平均と比べるとやや多くなっていました。

新年を迎えて、新しいめがねを作りました。もちろん、ぼくが自分で手作りをしたらそれはそれはひどいものになること間違いないので、めがね店で作ってもらったものです。

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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