「煮詰まる」

公開:2022年2月1日

Q
「一人で家にいても煮詰まるから出かけよう」というのは、正しい表現でしょうか。
A
「煮詰まる」の本来の意味は「議論が十分になされて解決に近づくこと」ですが、近年は「行き詰まる」の意味で使う人が増えています。
ただ、本来の用法とは正反対の意味になるので、人によっては、誤解してしまう可能性がありそうです。

<解説>

「煮詰まる」ということばは、人によって、解釈が大きく分かれます。

「煮詰まる」を辞書で調べてみましょう。
「大辞林(第4版)」は「①長時間煮て、水分がなくなる ②十分に議論・相談などをして、結論が出る状態になる ③時間が経過するばかりで、もうこれ以上新たな展開が望めない状態になる」という3つの意味を載せています。
煮物を十分に煮込んで、味の成分が濃縮された状態から転じて、②の議論が解決に向かう状態というプラスの解釈が生まれました。そして、近年登場したのが③です。

質問のケースでは、③の意味として使っていると考えられます。
ただ、この③の新たな展開が望めず、行き詰まるという意味での「煮詰まる」の使い方は、本来の用法と正反対ということもあり、辞書によって意見が分かれています。

「煮詰まる」を「行き詰まる」の意味で使うのは“誤り”としている辞書もあります。
例えば「新明解国語辞典(第8版)」は「問題の解決処理に行き詰まる意に用いることもあるが、誤り」と明記しています。

しかし、一方で、冒頭にあげた大辞林をはじめ、「行き詰まる」の意味を許容している辞書もあります。「三省堂国語辞典(第8版)」は「ものごとが限界をむかえ(て、進まなくな)る」という意味を載せ、これを「若い世代では主流の用法」とまで明記しています。

一体、どれが正しいのだろうか…と混乱してしまいますね。

考える手がかりとして、文化庁が行った調査結果(平成25年度)があります。

【七日間に及ぶ議論で、計画が煮詰まった】という例文を挙げて、解釈を尋ねた結果
「(議論や意見が十分に出尽くして)結論の出る状態になること」51.8%
「(議論が行き詰まってしまって)結論が出せない状態になること」40.0%
全体で見ると、本来の意味での使い方が主流のようです。

ただし、興味深いデータもあります。
60代では「結論の出る状態」が70.0%「結論が出せない状態」が23.6% となっていますが、40代よりも若い世代では「結論が出せない状態」が多数派を占めています。
若い世代になればなるほど「結論が出せない」の解釈が増え、16-19歳にいたっては「結論の出る状態」が28.0%「結論が出せない状態」が57.3%。
「結論が出せず、行き詰まっている」の解釈が、圧倒的に主流となっています。

世代によって、正反対の意味で用いられていることがよくわかりますね。
これでは、年配の上司が「どうだ?会議の進捗は?」と聞いて、若い部下が「その件は、煮詰まっておりまして」と答えた場合、重大な誤解を招きかねません。

時代の移り変わりによる“解釈の変化”は、広辞苑の歴史でも見て取れます。

概要をお示しします。

「煮詰まる」

初版(1955年) 第2版(1969年) 第6版(2008年)
水分がなくなる ①水分がなくなる
②転じて(中略)結論を出す段階になる
①水分がなくなる
②結論をだす段階になる
③転じて(中略)行きづまる

今後、この「煮詰まる」の解釈は、どこへ向かうのか。
いずれにしても「煮詰まる」を使うときには、誤解を招かないように、注意して使ったほうがよさそうです。

ここまで考えて、もう私の頭の中は、相当に煮詰まってきました。

メディア研究部・放送用語 藤井まどか

※NHKサイトを離れます