「対症療法」と「対処療法」。正しい使い方・違いは

公開:2020年11月1日

Q
「この病気には、対処療法しかない」という表現はおかしいだろうか。
A
正しくは、「対症療法(たいしょうりょうほう)」です。

<解説>

『新選国語辞典(第9版)』は、「対症療法」について、「①病気の原因をのぞくのでなく、あらわれた症状に応じてする治療法、②物事の目前の状況に応じた処理のしかた」という2つの意味を載せています。医療現場以外でも使われることばで、『広辞苑(第7版)』は、「対症療法で収支を合わせる」という用例を載せています。

「対症(たいしょう)」は、やや専門的なことばであるため、初めて耳で「たいしょう」を聞いた時に、読み方が似ていて、前後の文脈に合う「対処(たいしょ)」を当ててしまい、「対処療法」と覚えてしまっている人もいるようです。「対処法」ということばもあり、「症状に対処するための療法」と考えると、「対処療法」は、いかにもありそうなことばにも思えますが、正しくは「対症療法」です。

「対症」のように、自分にとってなじみのないことばは、頭の中で〝誤変換〟してしまうことがあります。例えば、「押っ取り刀(おっとりがたな)で駆けつける」の「押っ取り刀」も、誤解されがちなことばです。「押っ取り刀」は、「腰に差すひまもなく、刀を手にしたままであること。緊急の場合に取るものも取りあえず駆けつけるさまにいう」(『大辞林(第4版)』)、つまり、大急ぎの場合に使います。「押っ取り刀」の「押っ(おっ)」は、「おっぴろげる(押っ広げる)」などと同じように、主に動詞の前について、「勢いよく~する」という意味を表す接頭語ですが、日常生活の中で、「押っ取る(おっとる)」という動詞(連用形は「押っ取り」)を使う機会はほとんどありません。このため、「押っ取り」を、「ゆったり、おうような」という意味の副詞「おっとり」と勘違いし、反対の意味で覚えてしまっている人もいるようです。

「おっとり、刀で駆けつける」と、うっかり、間違わないよう気をつけましょう。

メディア研究部・放送用語 中島沙織

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