「場所とり」?「場所どり」?

公開:2020年8月1日

Q
「場所取り」ということばは、「場所とり」でしょうか、「場所どり」でしょうか。手元の国語辞典や発音アクセント辞典を見たのですが、載っていませんでした。
A
「場所とり」となるのが一般的だと思います。これは「連濁・非連濁」という問題です。「連濁」が起こるかどうかは、やや「気まぐれ」なところがある一方で、ある程度の傾向は指摘することができます。

<解説>

ある語と語が組み合わさって「複合語」になったとき、後ろの語の先頭部分の音が「澄んだ音」から「濁った音」に変化する現象のことを、「連濁」と言います。連濁は、同じような状況でも、起こったり起こらなかったりします。例えば、次のような例を見てみましょう。

【ふつうは連濁する例】焼き+さかな(魚)=焼きかな
焼きき(牡蠣)、焼きし(菓子)、焼きし(串)、焼きり(栗)、焼きけ(鮭)、焼きら(皿)、焼きうふ(豆腐)、…

【ふつうは連濁しない例】焼き+さば(鯖)=焼きさば〔× 焼きば〕
焼ききのこ〔× 焼きのこ〕、焼きキャベツ〔× 焼きギャベツ〕、焼きしお〔× 焼きお〕、焼きしめじ〔× 焼きめじ〕、焼きしらこ(白子)〔× 焼きらこ〕、焼きそば〔× 焼きば〕、焼きたまねぎ〔× 焼きまねぎ〕、焼きたらこ〔× 焼きらこ〕、焼きちくわ〔× 焼きくわ〕、焼きとうもろこし〔× 焼きうもろこし〕、焼きトマト〔× 焼きマト〕、焼きとり〔× 焼きり〕、焼きふ(麩)〔× 焼き〕、焼きほたて〔× 焼きたて〕、…

さて、どうもやっかいですね。連濁が起こりにくいときの要因・条件として、これまで、①「後ろの部分がすでに濁音を含んでいる場合(これは「ライマンの法則」と呼ばれています)」(「焼きさば」「焼きそば」など)、②「後ろの部分がすでに複合語である場合」(「焼きしらこ」「焼きたらこ」など)、③「後ろの部分が外来語である場合」(「焼きキャベツ」「焼きトマト」など)といったさまざまなものが指摘されていますが、なかなか説明がつかない例も多く、混迷を極めています。

これら以外に、④「意味的に、後ろの部分にとって、前の部分が『目的格』に相当する場合」には連濁が起こりにくい、という趣旨の要因・条件も指摘されています。今回ご質問の「~取り」を例に見てみましょう。

【ふつうは連濁する例】朝取り、足取り、いいとこ取り、くま(隈)取り、位取り、
先取り、下取り、総取り、段取り、手取り、日取り、縁(ふち)取り、本歌取り、間取り、横取り、乱取り、…

【ふつうは連濁しない例】明かり取り、汗取り、跡取り、脂取り、あや取り、命取り、
お水取り、音頭取り、かじ取り、かす(粕)取り、カルタ取り、草取り、月給取り、借金取り、しり取り、すもう取り、ちり取り、手取り足取り、点取り虫、人気取り、ねずみ取り、ノミ取り、星取り、虫取り、面取り、…

こうやって見てみると、連濁をしない例のほうは、「明かり取り〔=明かりを取る〕」「汗取り〔=汗を取る〕」「脂取り〔=脂を取る〕」、… のように、前の部分が「目的格」に相当するものであることが確認できます。一方、連濁する例のほうは「朝取り〔=朝に取る〕」「先取り〔=先に取る〕」「手取り〔=手に取る〕」「横取り〔=横から取る〕」のように、「目的格」には当たらないものが多く含まれています。

ここから考えると、意味的に「場所を取る」である「場所取り」は目的格ですから、連濁を起こさない「場所とり」のほうが、どちらかというとよいように思います。また、もし「アポ取り」ということばを読む必要がある場合、これは「アポを取る」ということですから、同じように連濁を起こさない「アポとり」のほうが「アポどり」よりもよいでしょう。

以上、能()きばかりでしたが、ことば(づか)いの手(だす)けになればと心()けて注意(ぶか)く書いたつもりです。

佐藤大和(1989)「複合語におけるアクセント規則と連濁規則」『講座 日本語と日本語教育2 日本語の音声・音韻(上)』

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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