「新型コロナウイルス」関連のことば ~「コロナ禍」の使い方~

公開:2020年7月1日

Q
最近「コロナ禍」ということばをよく見かけますが、どのように読むのでしょうか。
A
[コロナ\カ](*1)と読みます。

<解説>

「コロナ禍」の「禍」は「か」と読み、「災い」や「災難」「不幸なできごと」を意味することばです。「コロナ禍」とは、新型コロナウイルスが招いた災難や危機的状況を指し、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化するなか、3月半ば頃から、新聞やネット上で、よく見かけるようになりました。

例えば、新聞では、以下のように使われています。

「いま地球の各地で花農家がコロナ禍に泣く。」

(2020.4.20 朝日新聞「天声人語」)

コロナ禍は気候変動を巡る国際交渉のゆくえにも影を落とす。」

(2020.4.20 毎日新聞「脱炭素社会」)

コロナ禍でテレワークが普及したことも、ビジネスモデルの作り替えを加速させるだろう。」

(2020.4.19 産経新聞「日曜講座 少子高齢化時代」)

「ステージ守る輪 広がれ
 コロナ禍 ライブハウス苦境」(見出し)

(2020.4.17 読売新聞「間奏曲」)

放送でも、「コロナ禍を生きる」「どうする!?コロナ禍の豪雨避難」「紛争地でもコロナ禍」など、番組タイトルやテレビニュースのタイトル表記の中などで使われることがあります。「コロナ禍で苦悩する○○」「コロナ禍で深刻化する○○」といったタイトルもよく見かけます。

「コロナ禍」がよく使われるのは、新型コロナウイルスの感染拡大で引き起こされるさまざまな災難や不幸、経済的・社会的影響など複雑な状況を、短く一言で、インパクトのある文字で伝えることができるからでしょう。字数やスペースが限られた新聞の紙面やテレビの画面では、読む人や見る人に視覚的に訴えかけイメージを共有しやすいキーワードが求められます。

「禍」が後に付いたことばには、「災禍」「惨禍」「戦禍」「舌禍」などの二字熟語も多くありますが、「コロナ禍」のような、さまざまな名詞の後に「禍」が付いた形の「○○禍(か)」という複合語も、これまでメディアを中心によく使われてきました。過去の新聞を調べてみると、「台風禍」「洪水禍」「津波禍」「集中豪雨禍」「ウイルス禍」などのことばが、主に記事の見出しを中心に使われています。NHKのニュースでも、本文のなかではあまり見られませんが、タイトルの画面上の表記では、しばしば使われてきた表現です。いずれも、「○○による災難や被害(それに関連した状況)」を短くインパクトのある文字で伝えるためのことばと言えます。

ただ、こうしたことばは「書きことば」としては効果的でも、「話しことば」としては、あまりなじみません。テレビやラジオで伝え手が[コロナカ]と声に出して言っても聞き取りにくく、聞き取れたとしても「コロナ禍」は最近使われ始めた新語であるため意味が伝わりにくいからです。今のところ、放送のことばとしては「コロナ禍」は画面上の表記に止め、声で伝えるときには「新型コロナウイルスの感染拡大(による・・・の影響/状況)」など、伝える場面や内容に応じて具体的に分かりやすくことばを紡ぐことが求められるでしょう。「コロナ禍」ということばの使い方について最近行った民放各社との意見交換でも、「番組タイトルやニュースのテロップでの使用はあるが、読み原稿やスタジオトークでは使わない」という意見でおおむね一致しており、放送のことばとしては、慎重な姿勢がうかがえました。今後、新型コロナウイルスによる影響が長引く中で、新語の「コロナ禍」が世の中でどのように使われていくのか見極める必要があるでしょう。

また、「コロナ禍」という便利なことばを使うことに対しては、そもそも慎重になるべきだという考え方もあります。新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす影響は、個人個人の感染のリスクの問題から、医療問題、そして経済問題、さらには国際問題まで多岐にわたり非常に複雑かつ深刻です。「コロナ禍」ということばには、そのすべてを表現できる守備範囲の広さというメリットがある一方で、その複雑さや深刻さが丁寧にことばを尽くして語られることなく一言で済まされてしまうというデメリットもあります。放送では「コロナ禍」ということばを効果的に使いつつ、一方では、「禍」の現実に向き合い、その中身を具体的に語る姿勢が必要だと言えそうです。

最後に、「禍」に似た漢字による「コロナ」「コロナ」という表記も時々目にすることがあります。こうした間違いによって新たな「災い」を引き起こさないようにご注意ください。

「禍」が意味する「災い」(*2)には、「災いを転じて福となす」「災いも三年(置けば用に立つ)」などのことばもあります。新型コロナウイルスによる感染拡大は、まだまだ予断を許さない状況が続きますが、新型コロナウイルスによってもたらされた「災い」についても、働き方や暮らし方をうまく変えて幸せに転じるよう心がけ、時が経ったときに、コロナ禍がきっかけでよいこともあったと思えるように、日々を過ごしていきたいものです。

(*1)「」は、音が下がることを示します。『NHK日本語発音アクセント新辞典』で採用している記号です。

(*2)「禍」は一語で「わざわい」とも読みますが、常用漢字表の中に含まれていない読みであるため、放送では、「わざわい」は「災い」と表記することになっています。

メディア研究部・放送用語 滝島雅子

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