「炒まる」? ことば 最近気になる放送用語 公開:2019年10月1日 Q 「野菜が炒まったら」という言い方は、いけないのでしょうか。 A 実際にある程度使われている言い回しではあるのですが、違和感を覚える人も少なくないようです。 <解説> 「炒まる」という動詞[自動詞]は、「炒める」という動詞[他動詞]から導き出されたものです。この「炒まる」という言い方がおかしいのかどうかについては、昔から議論になってきました。このコーナーでもかつて2002(平成14)年11月に一度取り上げたことがあり、また1971(昭和46)年には放送用語委員会の席上で質問が出された記録があります(『文研月報』1971年9月号)。なかなか難しい問題なのです。 最近おこなった調査では、「野菜が炒まったら」という言い方は「おかしい」という人の割合が、6割以上になりました。 ややこしいのですが、この問題の文法的・意味的な面について、ちょっと考えてみます。「炒まる」という自動詞が成り立ちにくいのは、この動作の意味とも関係している可能性がありそうです。 日本語では、ある人が、ある動作を意図的におこなう場合には、まず他動詞での表現が考えられます。 私が ごはんを 炊く[他動詞] 私が おふろを 沸かす[他動詞] 一方、「ある人が、ある動作を意図的におこなう場合」であっても、自動詞を使った表現が好まれることが、よくあります。 「ごはんが炊けました」(←実際には「私」がごはんを炊いた) 「おふろが沸きました」(←実際には「私」がおふろを沸かした) これを、他動詞を使って「ごはんを炊きました」「お風呂を沸かしました」と言うと、場面によっては、「(あなたのために)わざわざ炊いてあげた」「(あなたのために)わざわざ沸かしてあげた」といったようなニュアンスが生まれてしまうこともあるのです。 ただし、すべての動詞に他動詞と自動詞がペアで備わっているわけではありません。たとえば次の【B】のように「放置していてはその動作が成立しない」動詞の場合には、他動詞はあっても自動詞が存在しないものがあるようです。 【A】ある程度放置していても成立しうる⇒他動詞と自動詞がペアで存在 揚げる~揚がる、炊く~炊ける、漬ける~漬かる、煮る~煮える、焼く~焼ける、沸かす~沸く、…… 【B】放置していては成立しない⇒他動詞のみ ゆがく[×ゆがかる]、(米を)とぐ[×とがる]、あぶる[×あぶらる]、三枚に下ろす(×三枚に下りる)、…… この「ゆがく」や「とぐ」などは、その動作をする人がほぼ付きっきりで対応しないとふつうは成立せず、自動詞が成り立ちにくいのだと考えられます。 「炒める」という動作は、ひっきりなしにフライパンを動かしたりしますよね。放置した状態では成立しないため、この他動詞「炒める」は、【A】ではなく【B】に属する(つまり「自動詞『炒まる』は成り立ちにくい」)ととらえる人が多いのです。 「炒める」の話、これにて失礼します。炒(チャオ)! メディア研究部・放送用語 塩田雄大 ※NHKサイトを離れます
「炒まる」という動詞[自動詞]は、「炒める」という動詞[他動詞]から導き出されたものです。この「炒まる」という言い方がおかしいのかどうかについては、昔から議論になってきました。このコーナーでもかつて2002(平成14)年11月に一度取り上げたことがあり、また1971(昭和46)年には放送用語委員会の席上で質問が出された記録があります(『文研月報』1971年9月号)。なかなか難しい問題なのです。
最近おこなった調査では、「野菜が炒まったら」という言い方は「おかしい」という人の割合が、6割以上になりました。
ややこしいのですが、この問題の文法的・意味的な面について、ちょっと考えてみます。「炒まる」という自動詞が成り立ちにくいのは、この動作の意味とも関係している可能性がありそうです。
日本語では、ある人が、ある動作を意図的におこなう場合には、まず他動詞での表現が考えられます。
一方、「ある人が、ある動作を意図的におこなう場合」であっても、自動詞を使った表現が好まれることが、よくあります。
これを、他動詞を使って「ごはんを炊きました」「お風呂を沸かしました」と言うと、場面によっては、「(あなたのために)わざわざ炊いてあげた」「(あなたのために)わざわざ沸かしてあげた」といったようなニュアンスが生まれてしまうこともあるのです。
ただし、すべての動詞に他動詞と自動詞がペアで備わっているわけではありません。たとえば次の【B】のように「放置していてはその動作が成立しない」動詞の場合には、他動詞はあっても自動詞が存在しないものがあるようです。
揚げる~揚がる、炊く~炊ける、漬ける~漬かる、煮る~煮える、焼く~焼ける、沸かす~沸く、……
ゆがく[×ゆがかる]、(米を)とぐ[×とがる]、あぶる[×あぶらる]、三枚に下ろす(×三枚に下りる)、……
この「ゆがく」や「とぐ」などは、その動作をする人がほぼ付きっきりで対応しないとふつうは成立せず、自動詞が成り立ちにくいのだと考えられます。
「炒める」という動作は、ひっきりなしにフライパンを動かしたりしますよね。放置した状態では成立しないため、この他動詞「炒める」は、【A】ではなく【B】に属する(つまり「自動詞『炒まる』は成り立ちにくい」)ととらえる人が多いのです。
「炒める」の話、これにて失礼します。炒 !