「御年(おんとし)◯歳」のニュアンス

公開:2019年7月1日

Q
情報番組で、出演者を「御年70歳の△△△△さんです」とご紹介したら、視聴者の方から、「年寄り扱いしていて失礼ではないか」というご意見をいただきました。「御年◯歳」の使い方について、教えて下さい。
A
「御年」は、主に高齢の人に対して敬意を示して年齢を言う場合に使われ、この場合も間違いではありません。しかし、ことさら年齢を強調する言い方を好まない人や、70歳はまだ若く元気だと考える人にとっては、気になる言い方かもしれません。また、接頭辞の「御」(お・ご・おん)は、本来の敬意とは別に、使い方次第で、からかいや皮肉の意味が加わることがあるので、放送では、注意して使うほうがいいでしょう。

<解説>

「御年◯歳」という表現は、NHKのニュースではほとんど使われませんが、情報番組やバラエティー番組などでは、時々耳にします。放送各社の代表が集まって、放送上のことばの問題を話し合う場でも話題に上り、トピックスや芸能関係の話題でよく使われるという報告がありました。

国語辞典を見てみると、『三省堂国語辞典』(第7版)では、以下のように説明されています。

「御年」 「とし(年)」の尊敬語。 [目ざましい活躍をしている人物に言う]
「―80歳でもまだまだ現役」

ある程度高齢で、それなりに活躍し功績のある人に対して使う尊敬表現だと言えるでしょう。

「御年◯歳」の使われ方の傾向を見るために、新聞・雑誌記事のデータベースで調べてみると(『日経テレコン』で2018年6月26日~2019年6月25日の1年間の新聞全国紙および一般雑誌を対象に検索)、42件の用例が見つかりました。例えば以下のような場面で使われていました。

(1)華麗な美貌で日本でも圧倒的な人気を誇ったフランスの俳優アラン・ドロン。
御年83で本年度カンヌ国際映画祭で名誉パルムドールを受賞した。

(『週刊朝日』2019年6月7日)

(2) ももいろクローバーZ。ロックバンドのKEYTALK。シンガー・ソングライターの平井大。ヒップホップMCのPUNPEE――。御年81歳の加山雄三にとって、孫ほどのミュージシャンが次々とステージに立った。色々な音楽を楽しめるのが音楽フェスティバルの魅力とはいえ、ここまで世代ごちゃ混ぜな例はなかなか見ない。

(『東京読売新聞』2018年6月27日)

こうした使い方は、非常に納得のいく「御年◯年」の使い方だと言えるのではないでしょうか。

また、中には、こんな変わった使い方もありました。

(3)我が家には、御年35歳の犬のぬいぐるみがいる。名を「しるびあ」と言い、母が結婚前に父にかってもらったものだ。

(『東京読売新聞』2019年2月10日)

(3)の場合は、ぬいぐるみに寿命があるとすれば「それをはるかに超えている」という前提があって、はじめて成立する表現だと言えるでしょう。

こうして考えると、「御年◯歳」という表現は、その対象となっている人が「天寿を全うした(しつつある)」と誰もが納得できるだけの年齢と功績があった場面で使うのがしっくりきそうです。

ちなみに、前出の42件の用例について、人以外の(3)の例を除いて、実際に何歳の人に対して使われていたか調べてみると図1のようになりました。

「御年〇歳」が使われた年齢

80歳代が24例で最も多く、全体のおよそ8割は80歳以上でした。「人生100年時代」にあって70歳代は、まだ「御年」を使うには若すぎるという見方もできそうです。しかし「何歳から使うのがふさわしい表現か」については、年齢が高ければ使えるということでもなく、例えば「御年52歳のキングカズ」と言われてもあまり違和感がないように、その人の功績の中身と年齢、そして多くの人が共感をもって敬意を表しているという状況があって成り立つ表現であるとも言えそうです。

放送では、こうした点を踏まえて、必要以上に年齢を強調したり相手を持ち上げたりすることは避け、その人の年齢や業績から判断して、それに見合った敬意を示すべきだと思われる場面で使うようにしたいものです。

メディア研究部・放送用語 滝島雅子

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