「超える」と「越える」。使い分け・意味の違いは

公開:2019年5月1日

Q
「100歳をこえて生きる」という場合の「こえる」の漢字表記は、「越える」「超える」のどちらでしょうか。
A
解釈によって、どちらも使えます。「越える」は、場所、時間、点などを通過するときに使い、「超える」は、ある一定の数量、基準、限度などを上回るときに使います。100歳を、通過点と考えれば「越える」になるでしょうし、「100歳」を長生きの基準と捉えれば「超える」になるでしょう。また、迷う場合や両方の解釈を込めたい場合などは、ひらがなで「こえる」とする選択肢もあります。

<解説>

放送現場からの問い合わせの中で日常的に多いのが、「こえる」の漢字表記を「越える」とするべきか「超える」とするべきかという相談です。最近寄せられた具体的な事例を見てみると、以下のようなものがありました。

  1. (1) 外交としてこえられない一線。
  2. (2) 年齢が60歳をこえる
  3. (3) 世代をこえて受け継がれてきた…
  4. (4) 不安な時代をこえて…。

「こえる」の中でも、「峠を越える」などは慣用が定着していますが、「越」と「超」は意味のかなりの部分が重なり合っているため、上記の(1)~(4)のように、文脈によっては「越」と「超」のどちらで書き表したらいいか迷うことがあります。

「越える」と「超える」の使い分けについては、第1121回放送用語委員会(平成5年2月12日)で審議され、放送では、以下のように使い分けることにしています。

越える・越す
(意味) 場所・時間・点などを過ぎて向こうへ行く。移る。
(用例) 勝ち越す、権限を越える、頭上を越す、峠を越える(越す)、年を越す、飛び越す、乗り越える、引っ越す、見越す、持ち越す、冬を越す、ラインを越える、60の坂を越える
超える・超す
(意味) ある一定の数量・基準・限度などを上回る。超越する。抜きんでる。
(用例) 1万円を超える額、基準を超える、子どもが親を超える、人口が100万を超える、制限重量を超す、定員を超える、党派を超える、人間の能力を超える、予想を超える

傾向として、抽象的なものには、「超」があてはまることが多いようです。また、一般的に「勝ち越す」「乗り越える」などのように他の動詞と複合する場合は「越」になります。

以上をもとに考えると、(1)は「一線」というラインをこえるので「越」、(2)も「60歳」を通過点と捉えれば「越」となるでしょう。(3)は「世代を超越して」と考えれば「超」でしょう。また、(4)は、「不安な時代が過ぎ去って」と捉えれば「越」、「不安な時代を超越(克服)して」と捉えれば「超」、というように解釈によって両方あり得ます。

また、こうした「越える」と「超える」の使い分けについては、文化審議会国語分科会も平成26年の「『異字同訓』の漢字の使い分け例(報告)」の中で同様の見解を示し、新聞・放送のマスコミ各社もほぼ同様の考え方をとっています。

ちなみに、現代日本語の書き言葉の縮図とも言える『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(通称:BCCWJ)を使って(注1)、世の中での「越える」「超える」の使われ方を調べてみると、「超える」のほうが全体の6割を超え(「超」63%、8036件。「越」31%、4029件)、使われる場面が多いことがわかりました。(図1)。 使用頻度の多いものを順に並べてみると(表1)、「越える」は「国境を~」をはじめ「何かを空間的に通過してこえる」という場合に使われ、「超える」は、数字や助数詞が付いた数値と一緒に用いられることが多く、「ある決められた基準や枠をこえる」という場合に使われているようです。

「超える」?「越える」?

漢字表記を「越える」にするか「超える」にするかについて、放送では、意味や内容が伝わりやすい表記を選ぶようにし、「越」と「超」の両方のニュアンスを込めたいときや迷う場合は、ひらがなを使うとよいでしょう。

(注1) 国立国語研究所が、現代日本語の書き言葉の全体像を把握するために構築した日本語の大規模データ(2011年公開)。1976年から2005年までに刊行された出版物を対象とし、1億430万語のデータが収録されている。ここでは、国立国語研究所とLago言語研究所が開発したNINJAL-LWP for BCCWJを利用。

メディア研究部・放送用語 滝島雅子

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