「雰囲気」は[フインキ]? [フンイキ]?

公開:2018年11月1日

Q
「雰囲気」は[フインキ]と発音したらいけないのでしょうか。
A
[フインキ]のように発音しても通じないことはありませんが、放送では[フンイキ]と発音するのが望ましいように思います。

<解説>

「雰囲気」の読み方について尋ねた調査の結果では、全体の22%の人が「[フインキ]と(も)言う」と答えていました。この割合は、40歳代ではさらに大きくなっています。若い人ほど[フインキ]と言う人が多い、という単純なものでもないようなのです。

なぜ「雰囲気」には[フインキ]という発音も出てくるのでしょうか。これには実はいろいろな説がありますが、次のような変化の道筋があると考えるのが、よさそうです。太字は「鼻にかかった音」です。

フンイキ]⇒[フンイキ]⇒[フーイキ]⇒[フイーキ]⇒[フインキ]

それぞれの隣同士のペアで見てみると、互いにとてもよく似た音になっています。この連なりが全体として、[フンイキ]から[フインキ]へと、最終的にはあたかも[ン]と[イ]が逆転したような形をもたらしていると言えるかもしれません。この結果、「“ふいんき”と入力したのにきちんと漢字変換されない」という笑えない事態が生じてしまうのではないでしょうか。

これと似たような現象は、発音上は、ほかのことばでも起こっています。

「原因」[ゲンイン]⇒[ゲーイン
「全員」[ゼンイン]⇒[ゼーイン
「全域」[ゼンイキ]⇒[ゼンイキ]⇒[ゼーイキ]
「単一」[タンイツ]⇒[タンイツ]⇒[ターイツ]

しかし、「“げいいん”“ぜいいん”と入力したのに漢字変換されない」というような話は、聞いたことがありません(経験値が足りないだけかもしれませんが)。こちらのほうは、仮に[ゲーイン][ゼーイン]と発音されていたとしても、文字で書くならば「げんいん」「ぜんいん」となる、ということが、ちゃんと意識されているのです。

さて、どうしてでしょうか。「原因」「全員」は単語として非常に基本的なものだということもあるかもしれませんが、それ以上に、「漢字表記」が記憶の手がかりになっているように思います。「原」「全」はそれぞれ一字で「げん」「ぜん」ですから、間違えないのです。以前に、「満員」という漢字をまだ学習していない小学生の作文に「(動物園は)まあいんでした」と書いてあるのを見たことがあります。漢字を覚えれば、ひらがなで書く場合でも「まんいん」と書くようになるでしょう。

では、「雰囲気」では漢字表記が記憶の手がかりにはならないのでしょうか。たぶん、そうだと思います。「雰」の字は「雰囲気」以外で使うことはまずないでしょうから、この漢字単独の読み方が分からなくてもしかたありません。そして、「囲」の字を「因」と取り違えたとすれば、なんと「雰因気」というのができあがります!どうでしょう、これ、[フインキ]と読めそうな気がしてきませんか。アーイ、じゃなかった安易(あんい)な考えだなどとおっしゃらず、どうかシーイじゃなくて真意(しんい)をくみ取ってください(←芸風がしつこい)。

(2018年7月実施、1,203人回答[サンプル数3,982、有効回答率30.2%])

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

※ こうした観点は、上野善道(2014)「フンイキ>フインキの変化から音位転換について考える」『生活語の世界:北海道方言研究会40周年記念論文集』で早くに指摘されています。

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